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社説・コラム

2014衆院選 艦載機移転 かすむ論戦 将来負担 募る不安

 在日米軍再編に伴い、岩国市の米海兵隊岩国基地には、2017年ごろまでに米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機の移転が予定される。極東最大級の基地へと変貌を遂げつつある一方、移転の是非や安心安全対策をめぐる論戦はかすみがちだ。将来の負担増に住民は不安を募らせる。(野田華奈子)

 「どの政権になっても艦載機は必ず来る。あれだけの投資を無駄にするはずがない」。岩国基地に隣接する車第三自治会の山縣克彦会長(67)は、日々増えていく基地内の建物を自宅の居間から見詰めた。道路の渋滞、犯罪の増加、騒音…。将来のまちの姿を想像してみる。「米兵と共生していくための対策は何も示されない」

 8月、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)のKC130空中給油機部隊が岩国基地へ移転。安倍晋三首相は先の臨時国会の所信表明演説で、米軍再編の前提に掲げる沖縄の負担軽減の具体的な「行動」として紹介し、実績を印象付けた。

 続く艦載機移転の受け入れ判断を、市は「安心安全対策や地域振興策の成果の先にある」とする。だが基地では関連工事が、愛宕山地域開発事業跡地では米軍住宅整備が始まり、国による受け入れ準備が進む。

 「もはや移転の是非ではない。遅れがちな道路や下水道整備などの財源を国から引っ張って目に見える何かをやっていかんと」。桑原敏幸市議会議長(66)はこう語り、沖縄の負担を全国で分かち合う議論が必要と訴える。政府は米軍再編で基地負担が増える都道府県向け交付金の来年度創設を検討する。

 艦載機移転をめぐる06年の日米合意から8年。ことし10月の市議選で中国新聞が実施した候補者アンケートでは、市議全32人のうち過半数の17人が艦載機移転に容認姿勢を示した。10人が反対、5人が賛否を明確にしなかった。

 一方、16日に投開票された沖縄県知事選で、普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する新知事が誕生した。「普天間移設の見通しが立たないうちに艦載機移転だけを進めることは認められない」とする山口県と岩国市の受け入れ判断に影響する可能性もある。

 岩国基地を含む山口2区には3人が立候補を予定する。自民党前職の岸信夫氏(55)は艦載機移転を「安全安心対策にしっかり取り組み、地域の理解を得ながら進める」と語る。民主党元職の平岡秀夫氏(60)は「負担の押し付けで個人的には反対」とするが、同党はマニフェストに「米軍再編の着実な実施」を掲げる。与野党第1党の立候補予定者が訴えに艦載機移転を積極的に織り込むことはない。

 これに対し、反対を掲げる共産党新人の赤松義生氏(60)は沖縄県知事選の結果を追い風に「艦載機移転は嫌という市民が心を一つにできる」と強調する。

 厚木基地の騒音訴訟で横浜地裁は5月、住民の睡眠妨害を被害と認定。自衛隊機の夜間・早朝の飛行差し止めを初めて命じた。岩国基地の周辺住民も艦載機移転の差し止めや騒音被害の賠償を求める訴訟を起こしている。「移転を『仕方がない』と考える人も多いが騒音は確実に増えるだろう。政府は米国より国民の声を真摯(しんし)に聞くべきだ」。岩国爆音訴訟原告団の津田利明団長(68)は切に思う。

(2014年11月28日朝刊掲載)

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