×

社説・コラム

2014衆院選 原発再稼働へ消えぬ疑問 避難計画に「不備」の声

 原発を重要電源と位置付ける安倍政権の下、九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)が年明けにも再稼働する。中国地方唯一の原発、中国電力島根原発(松江市鹿島町)の2号機は、再稼働に向けた新規制基準への適合性審査の結果が来年にも示される。地元では事故の際の避難計画への不安や、稼働判断の在り方への疑問は消えない。原発の将来像も含め、こうした住民の声に応える議論が、この衆院選で求められる。(樋口浩二)

 島根原発の南東約6キロ。障害者支援施設シリウス苑(えん)(松江市法吉町)の敷地で発電機の基礎工事が進む。外気から放射性物質を取り除き、施設に送る設備が来年3月に完成する。「屋内にとどまる時間が稼げるのは安心」。苑長の吉川智津緒さん(59)は感謝する。工事費2億円は国の負担だ。

 一方、20~70歳代の入所者40人は自力避難が困難。自前の搬送車両は2台しかない。「バスや自衛隊の車両を回してもらわないと逃げられない」と吉川さん。だが福島の事故から3年8カ月が過ぎた今も、国の調達方法は決まっていない。

 「実際の事故では訓練のようにスムーズに逃げられるわけがない」。松江市の竹下直邦さん(69)は言い切る。島根県が10月、鳥取県など原発30キロ圏2県6市と開いた避難訓練に参加。3時間半かけて原発の西約100キロの江津市までバスで移動した。

 島根原発内では今、政府と中電が「福島の教訓」とする安全工事が進む。総工費約2千億円。海抜15メートル、総延長1・5キロの防波壁などが出来上がった。だが竹下さんは「ハードを造ってもそれを上回る事故が起きない保証はない。事故の際、どう情報が届けられるかが一番不安だ」。訓練では避難開始を告げる街頭スピーカーの音は聞こえなかったという。

 川内原発の再稼働では、原発30キロ圏の周辺自治体の声は反映されなかった。福島の事故で原発から約32キロの福島県いわき市から出雲市に避難した吉田勉子(やすこ)さん(73)。1月に帰った自宅庭の放射線量は今なお毎時0・3マイクロシーベルト。国が年間被曝(ひばく)線量の上限とする1ミリシーベルトを超える計算だ。「被害が及ぶ周辺が何も言えない構図はおかしい」と訴える。

 島根原発を抱える島根1区。福島の事故後2度の国政選挙とも、各党の議論がかみ合うことはなかった。共産党は原発即時ゼロを主張。一方で自民党は稼働反対の住民感情に配慮、民主党は原発関係者を含む支援母体に遠慮し、それぞれ発信を控えた。

 原発から9キロの松江市東茶町で自治会長を務める祐源修輔さん(67)はいう。「地域の将来を左右する重要な課題。事故のリスクを大前提にエネルギー政策の道筋を丁寧に示してほしい」

中国電力島根原発
 1974年に運転を始めた1号機(出力46万キロワット)は中電が廃炉も視野に入れている。適合性審査が進む2号機(同82万キロワット)と、ほぼ完成した3号機(同137万3千キロワット)は早期稼働を目指している。

(2014年11月29日朝刊掲載)

年別アーカイブ