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社説・コラム

中国新聞を読んで 平尾順平・ひろしまジン大学学長 核兵器廃絶 歩み考えよう

 11月5日付の内政・総合面に、米国が9月と10月、少量のプルトニウムと、強力なエックス線を発生させる実験装置「Zマシン」で核兵器の性能を調べる実験をしたことを明らかにしたという記事が載った。その2週間ほど前には国連総会第1委員会(軍縮)で日本など155カ国・地域が核兵器の非人道性と不使用を訴える声明を発表したばかり。いっそう残念な気持ちが募った。

 米国は2009年のオバマ大統領就任後、今回の実験以外に臨界前核実験を4回実施。核爆発を伴わないため、包括的核実験禁止条約(CTBT)の対象外と主張している。オバマ大統領は就任直後、「核兵器なき世界」に向けてチェコの首都プラハで歴史的な演説をし、同年のノーベル平和賞を受賞したことが今では信じがたい。一時的にせよ、オバマ大統領のプラハ演説を聞いて期待した広島市民の一人としては裏切られたような気持ちになってしまう。

 今回の実験に対し、二つの広島県被団協などが広島市中区の原爆慰霊碑前で抗議の座り込みをし、相次いで怒りを表明したことも報じられた。被団協の中には、国連総会第1委員会の声明に賛同しながらも米国の実験を黙認する日本政府に対し、不満をあらわにする声も噴出したという。そうした記事を読んで、核保有国へのアプローチも大切だがまずは日本政府の姿勢に対し、私たちはなすべきことが多くあるのではないかと考えさせられた。

 これまで多くの国・地域や都市などが核兵器に反対し、広島、長崎からは常に「核兵器廃絶」を発信しているにもかかわらず、世界各地の核兵器はなくならない。核兵器廃絶はきれいごとだけで進まないのは明らかだが、何がその歩みを止めているのか。だれが核兵器で富を得ているのか。そこに私たちは遠いところで加担してはいないだろうか。米国や中国、ロシアなど核兵器を保有する国の人々は核兵器廃絶をどう思い、どんな議論をしているのだろうか。広島はそうした点をもっと分かりやすくひもとき、現実的、具体的なアプローチを考え、提案していくことが必要だと思う。

 来年は被爆70年。もう一度原点に立ち返り、謙虚に考えてみたいという気持ちを強く抱いた。(読者モニター=広島市)

(2014年11月30日朝刊掲載)

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