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連載・特集

廃炉の世紀・特集 原発の行方選択の時 

 いかに安全に原子力発電所の廃炉を進めるか、放射能に汚染された廃棄物をどこでどう処分するか。本格的な廃炉時代を前に、日本でも議論が始まっている。廃炉は目に見えない放射能の影響をにらみつつ、数十年単位の時間をかけて進める長い道のりだ。電力という「恩恵」と、核のごみなどの「負担」を、社会がどう分かち合うかも問われる。私たちはどんな道筋を選ぶのか。現状と課題を考える。(山本洋子)

国内老朽7基 現状は

運転40年前後 存廃判断へ

 直径約6メートル、高さ2メートル前後の巨大な熱交換器を、ロボットアームが火花を上げて輪切りにしていく。1966年に運転を始めた国内初の商業原発、日本原子力発電の東海発電所(茨城県東海村)。98年に運転を終えて廃炉作業に入り、熱交換器の解体撤去が進む。

 切り離された部分はだるま落としのように取り除かれ、徐々に解体が進む。作業は全て、離れた場所にある部屋で作業員が遠隔操作する。「将来の原子炉解体に向けた経験を得る」。原電廃止措置プロジェクト推進室の苅込敏調査役が説明する。

 現在、国内で廃炉作業が進む原発は、東海原発と新型転換炉ふげん(福井県敦賀市)、浜岡原発1、2号機(静岡県御前崎市)の計4基だ。これまで廃炉を終えたのは動力試験炉「JPDR」(出力1・25万キロワット、茨城県東海村)だけ。廃炉は個々の原発の状態に応じて「既存の技術を組み合わせ、いかに合理化するかを探っている」(苅込調査役)のが現状である。

 ただ、廃炉中の4基が直面している最大の課題は、解体で生じる放射性廃棄物の行き場がないことだ。処分法が決まらないため、東海原発は既に廃炉の終了時期を2度も延期している。

 国は運転40年前後を迎えた国内の原発7基についていま、各電力事業者に存廃の早期判断を求めている。事業者側が重視するのは、老朽原発の経済性だ。

 「安全性確保のために必要な対策を実施するめどがついた。概算で経済性はある」―。関西電力の八木誠社長は11月26日、高浜原発1、2号機(福井県高浜町)の運転期間の延長に向けた特別点検を実施すると発表した。

 老朽7基のうち4基が関電の原発。原発依存度の高い関電は、巨額の追加投資が必要になっても、高浜を再稼働させた方が経済的にメリットがあるとみる。

 一方、原子力規制委員会の田中俊一委員長は高浜原発について「新しい炉ではないから相当(審査は)難しく時間がかかると思う」とし、運転期間の延長はより慎重に審査する考えだ。

 島根原発1号機(松江市)など残る3基については、事業者が廃炉を選ぶ公算が大きいとみられている。競争環境が厳しくなる電力の全面自由化を控え、時間も費用も膨大にかかる廃炉を電力会社が担えるのか―。国の総合資源エネルギー調査会の作業部会では「廃炉を進める事業者がこの世から消えても、廃炉ができるような制度が必要だ」との指摘も出ている。

放射能いかに取り除く

薬品などで除染 ロボットも活用

 廃炉作業では、放射線量が高い原子炉を中心に、放射能をいかに取り除くかが大きな課題となる。

 まず、施設で最も高い放射線を放つ燃料を運び出す。使用済み燃料は建屋から取り出して輸送容器に収め、敷地内の燃料プールなどで一時貯蔵する。

 設備や配管など全体の汚染状況を調べた後、除染に入る。薬品を使ったり、機械で表面を削り取ったりして機器の表面に付いた放射性物質を取り除く。人が近づけないエリアが多い福島第1原発では、大手メーカーが開発した遠隔操作ロボットが活躍している。

 原子炉本体は、そのまま「安全貯蔵」して自然に線量が下がるのを待つ。その間、周辺の施設や放射線管理区域外の設備の撤去を進めるのが一般的だ。

 5~10年の安全貯蔵の後、原子炉を解体する。解体に決まった手法はない。新型転換炉ふげんの場合、炉全体を水に沈めて遠隔操作でレーザー切断する計画でいる。

 約10年かけて1996年に廃炉を終えた動力試験炉「JPDR」の跡地は更地に戻った。だが、敷地内には一部放射性廃棄物が残っている。日本の一般的な原発の場合、すべての廃炉作業を終えるのに20~30年を想定している。

廃炉費用は

試算350億~834億円 上振れも

 原発を廃炉にするには巨額の費用を要する。資源エネルギー庁は、島根原発1号機(出力46万キロワット)など、50万キロワット級の小型炉で350億~476億円程度▽80万キロワット級で434億~604億円程度▽110万~138万キロワット級で558億~834億円程度―と試算する。

 原発を持つ各事業者は毎年、一定の「原子力発電施設解体引当金」を積み立てて廃炉に備えてきたが、福島第1原発の事故後に定められた原則「運転40年」のルールを適用すると引当金不足が生じるとされる。さらに、廃炉を終えた商業原発はまだ日本にはない。廃棄物が処分できずに廃炉作業が滞るケースも出ており「試算よりも上振れするのでは」との見方も強い。

 日本原子力産業協会の服部拓也理事長も「先行しているドイツなど欧米の例を参考に、日本でも廃炉コストの考え方を再検討する必要があるのではないか」と指摘する。

核燃料サイクル
 原発から出た使用済み燃料を再処理し、取り出したウランとプルトニウムを混合酸化物(MOX)燃料にして原発で再利用する仕組み。ただ、中核となる高速増殖炉の原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)はトラブルが相次ぎ、原子力規制委が昨年5月、事実上の運転禁止命令を出した。ことし10月に予定されていた青森県六ケ所村での再処理工場の完成も、2016年3月に延期された。

廃炉会計と電気料金
 各原発の廃炉費用は、将来必要になる額の試算に基づき、「原子力発電施設解体費」として電気料金に上乗せされている。電力会社の負担を減らすために国は昨年、運転終了後も一定期間、電気料金で費用を回収できるようにするなど会計制度を一部見直した。経済産業省は、電力小売り全面自由化後も、電気料金に廃炉費用を転嫁できる仕組みをつくる方向で検討に入った。

(2014年12月6日朝刊掲載)

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