×

連載・特集

廃炉の世紀・特集 「核のごみ」どう解決 

 いかに安全に原子力発電所の廃炉を進めるか、放射能に汚染された廃棄物をどこでどう処分するか。本格的な廃炉時代を前に、日本でも議論が始まっている。廃炉は目に見えない放射能の影響をにらみつつ、数十年単位の時間をかけて進める長い道のりだ。電力という「恩恵」と、核のごみなどの「負担」を、社会がどう分かち合うかも問われる。私たちはどんな道筋を選ぶのか。現状と課題を考える。(山本洋子)

低レベル廃棄物

島根は容量の7割超

 灰色のコンクリートの塊が一面に広がっていた。青森県六ケ所村にある日本原燃の低レベル放射性廃棄物埋設センター。中には、低レベル放射性廃棄物が入った黄色のドラム缶が詰まっている。国内で唯一、核のごみを最終処分する施設だ。「最終的には施設ごと埋めます」と日本原燃の担当者。将来には200リットルのドラム缶300万本を収める規模まで増設するという。

 だが、受け入れるのは運転中の原発で使った手袋などの消耗品やフィルターなど、放射能レベルが比較的低い廃棄物だけ。制御棒など放射線量が高い廃棄物は対象外で、受け入れる施設は日本にはない。

 廃炉を考える上で、重要な鍵となる放射性廃棄物の処分。まずは、運転中の原発から出る核のごみや使用済みの核燃料が、どんな道筋で貯蔵、処理されているのか、島根原発を例にたどってみる。

 日本は使用済み燃料からウランやプルトニウムを取り出して再利用する「核燃料サイクル」を原子力政策の前提とする。中国電力は島根原発から出た使用済み燃料を、再処理を委託する英国やフランス、再処理工場の建設が進む六ケ所村などに運び出してきた。

 英仏での再処理後に残る廃液はガラスと混ぜて高レベル放射性廃棄物の「ガラス固化体」となり、六ケ所村の日本原燃の貯蔵管理センターに戻る。直近では4月、中電分の20本を含むガラス固化体計132本が英国から運び込まれた。

 高レベル放射性廃棄物は最終的に、地中300メートルより深く埋める方針だが、その候補地すら決まっていない。核燃料サイクルも動かない中で、核のごみが六ケ所村にたまり続ける。

 全国の原発の敷地内でも、使用済み燃料やごみは増え続ける。島根原発では、使用済み燃料を貯蔵できる能力は「7年で管理容量を超える」(資源エネルギー庁)水準。低レベルの廃棄物も既に容量の7割を超えている。

 廃炉に伴う低レベル放射性廃棄物の行方はさらに道筋が見えない。六ケ所村も、現時点では廃炉の「解体ごみ」は受け入れ対象にしていない。

高レベル廃棄物

処分地 国主導で選定へ

 10万年単位で管理が必要な高レベル放射性廃棄物を、日本のどこで処分するのか。国は2002年から地層処分の候補地を自治体に募るが、調査に進んだ例はない。

 安倍政権は昨年末、候補地選びを国が主導するよう切り替える方針を決めた。10月に再開した総合資源エネルギー調査会の作業部会は、処分地にふさわしい場所を選ぶ基準作りを進める。

 「自分が嫌だからと廃棄物を押し付け合ってけんかになると、あらゆる問題が解決しない」。原子力安全研究協会処分システム安全研究所の杤山(とちやま)修所長は、候補地選びの難しさをこう表現した。

 かつて国が北海道幌延町で1980年代に計画した研究・貯蔵施設の建設計画では、農家を中心に反対運動が起こり、道議会が設置反対を決議。道は00年に放射性廃棄物の持ち込みを拒否する条例を制定した。07年に高知県東洋町が文献調査への応募を発表したが、住民の反対などで白紙に戻った。

 原発の敷地などに保管されている使用済み燃料1万7千トンと合わせると、国内には既にガラス固化体で約2万5千本相当の高レベル放射性廃棄物がある。日本学術会議は数十年から数百年程度、高レベル放射性廃棄物や使用済み燃料を容器やプールに入れて「暫定保管」し、技術的な検討や社会的な議論をするよう提案している。

≪日本の放射性廃棄物の処分をめぐる動き≫

■1976年
 原子力委員会が放射性廃棄物対策の基本方針を決定。高レベル放射性廃棄物は地層処分を軸に検討、それ以外は海洋処分と陸地処分を併せて行う、とした

■80年代前半
 日本の海洋試験投棄の計画に対して国内外で反対運動が広がる

■83年
 海洋投棄規制条約(ロンドン条約)会議で、低レベル放射性廃棄物の海洋投棄の一時停止を決議

■91年
 岡山県の旧湯原町議会が全国の自治体で初めて、放射性廃棄物の持ち込みを拒否する条例を可決(2005年に合併で真庭市となり失効)

■92年
 青森県六ケ所村で低レベル放射性廃棄物埋設センターが操業を開始

■93年
 原子力委が海洋投棄を断念する方針を決定▽ロンドン条約締約国会議で、低レベル放射性廃棄物の海洋投棄を全面禁止する条約改正案を採択

■2000年
 高レベル放射性廃棄物の処分地選定などを担う原子力発電環境整備機構(NUMO)が発足。02年から全国で調査地の公募をスタート

■07年
 高知県東洋町が、高レベル放射性廃棄物の候補地選定に向けた文献調査に応募すると発表。地元の反対で町長選にまで発展し、最終的に国は調査実施を断念

■13年
 高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定で、国が主導して候補地を示す方式を進めることを政府が決定

(2014年12月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ