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社説・コラム

『潮流』 マンデラ氏と総選挙と

■論説主幹・江種則貴

 例年この時期に、よい1年を祈りながら来年の手帳を支度する。まっさらのページにまず自分の名前を記す緊張感がいい。

 引き出しの奥から2年前の手帳を引っ張り出した。ちょうど今頃は前回衆院選のさなか。政権交代が確実視され、各政党が盛んに主張を競った。今回とは段違いの緊迫感があった。

 1年前のきのうは、アパルトヘイト(人種隔離)と闘ったネルソン・マンデラ氏が死去している。「あなたが遠慮しても世の役には立たない」。昨年の手帳には、彼の言葉のいくつかを書き写した。

 そのマンデラ氏が生きていれば、今の世界はどう映るだろう。祖国の南アフリカはいまだ黒人が貧しさにあえぎ、裕福な白人との格差が厳然と存在するという。肌の色を問わず全ての人が光り輝く「レインボー・ネーション(虹の国)」というマンデラ氏が追い求めた理想郷にはまだ遠い。

 米国社会も深刻に見える。白人の警察官が黒人男性の首を絞めたり、黒人少年を撃ったりして命を奪う事件が相次ぐ。一人一人に自由と平等が保障されてこそ民主主義は成り立つはずである。それを腕力や銃で奪われてはたまらない。

 民主主義といえばやはり選挙だ。1票を通じて私たちは民意を政治に託す。その意味で気になるのは、本紙などの世論調査で衆院選に関心が「ある」と答えた広島県内の有権者は62・4%で、前回より15ポイント近くも下回ったこと。前回の県内投票率は56・76%と戦後最低だった。では今回は?

 マンデラ氏はこうも言っている。「大きな山に登ってみて、人はさらに登るべきたくさんの山があることに気付くのだ」

 行動を起こさなければ始まらない。日本版の「虹の国」を目指すにしても、どこかの誰かに任せれば適当に創ってくれるものではない。さあ投票に行こう。

(2014年12月6日朝刊掲載)

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