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社説・コラム

天風録 「秘密にご用心」

 うたぐり深いお金持ちエヌ氏は秘書ロボットを作る。財産を守るには人など信用できないから。だがこの秘書、お供させたバーで女性に尋ねられて、ぺらぺらしゃべりだした。税金のごまかし方や帳簿に付けない秘密まで▲星新一さんのショートショート「頭の大きなロボット」である。エヌ氏は「秘書」の口に鍵を掛け、秘密を漏らさぬよう改造していくが、身を滅ぼす。読むうちに笑えなくなるのは、エヌ氏の似姿が思い浮かぶからか▲特定秘密保護法がとうとう施行された。国家の安全保障に関わる特定秘密を守るためという。漏らした関係者には厳しいおとがめがある。どこか「秘書」の運命に通じるよう。そもそも国民の知る権利は守られるのだろうか▲何が秘密なのかは分からない。どこまで秘密か、政府の判断で広がりもする。そのうえ聞いてしまった報道機関や市民の側まで罪に問われかねないとは、SF小説が描く荒廃した近未来さながら。心配にもなってくる▲酒席の多い季節である。隣り合った人とお近づきに一杯、なんて場面も出てくる。「お勤めは?」と杯を交わすうち、知らぬ間に秘密に近づいていないか。どうかご用心―。そんな時代らしい。

(2014年12月10日朝刊掲載)

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