×

社説・コラム

【解説】米英参加で無難な着地

 核軍縮の停滞に業を煮やした国々が仕掛けた「核兵器の非人道性に関する国際会議」は、3回目にして初めて、核兵器保有5大国から米国と英国が参加した。核兵器がもたらす壊滅的な被害に着目し、廃絶を急ぐ国際世論のうねりに、核保有国も目を背けられなくなった表れだ。ただ当事国を巻き込んだことで、議論は無難な着地をせざるを得なかった。

 非人道性の議論を主導する国々は核兵器の非合法化を目指しているが、米国は初日の討議で早々と、核兵器禁止条約など廃絶に向けた日程を決めるのに反対を宣言。英国も「必要がある限り最小限の抑止力は維持する」と演説し、非核保有国との溝が浮き彫りになった。非核外交で、事有るごとに繰り返されてきたシーンは、この会議でも変わらなかった。

 それでも、保有国が参加したという事実を評価する声はある。来春に開かれるNPT再検討会議はすでに中東問題などで難航が予想されている。国際社会を廃絶の方向へ結束させるはずの非人道性の議論で、参加国が分裂するのは避けたかったのだろう。「核兵器の非合法化」と「段階的な核軍縮」を両論併記した議長総括からも透けて見えた。

 ただ、非人道性の議論をリードすべき被爆国の政府代表の発言が波紋を広げたのはいただけなかった。核爆発が起こると負傷者の救援活動ができないとの意見に対し、佐野利男軍縮大使は「少し悲観的だ」と反論。救援能力を高める研究を提案した。核被害を過小評価したともとれ、参加した被爆者たちは反発した。

 来年は被爆70年にも当たり、会場からは「核軍縮を進める年だ」との声が相次いだ。オーストリア政府が強調した「核兵器廃絶へ、言葉から行動に移す時だ」との言葉は、日本にも向けられている。(ウィーン田中美千子)

(2014年12月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ