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社説・コラム

[私の「争点」2014衆院選] 国土防衛は一国では無理/国際問題は政治で解決を

 安倍政権は7月、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定に踏み切った。戦後日本の安全保障政策の大転換に賛否は交錯する。衆院選で、集団的自衛権の行使容認の問題にどう向き合うべきか。2人に聞いた。(聞き手は加茂孝之)

元海上自衛官 土手義孝さん(74)=呉市

 自衛隊に33年間勤務し、いざというときにできることが限られると痛感してきた。海外派遣の際は他国の軍隊に警備してもらい、自分の身は自分で守るという当然のこともできない。

 元海上自衛官。補給艦とわだの艦長を務め、1992年、自衛隊初の国連平和維持活動(PKO)でカンボジアに赴いた。

 日本の平和と安定は、日米同盟があってこそだ。中国の海洋進出や北朝鮮の核開発の動きもある。日米同盟を強化して抑止力を高めるには、集団的自衛権の行使を容認する必要がある。今後、関連法の整備を進め、独立国家として当然の権利を行使できる環境を整えてほしい。

 決して戦争を容認しているわけではない。二度とあってもならない。ただ、降りかかるかもしれない火の粉には備えねばならない。

 歴代内閣は憲法9条が許容する「必要最小限度の自衛権の範囲を超える」と解釈し、集団的自衛権の行使を禁じてきた。

 世界情勢は変化し、一国だけでは国を守れないと国民も理解していると思う。行使を認めても悲惨な戦争を経験した日本人は、戦闘地域への派遣は認めないだろう。私もそれは駄目だと思う。日本が他国へ攻め込む事態も考えにくい。行使の在り方は法整備の過程できちんと議論してほしい。

 集団的自衛権は、日本の存在や安全に関わる重大な問題。政党や候補者は、得票につながりにくいからと避けず、もっと盛んに議論してほしい。

児童文学作家 那須正幹さん(72)=防府市

 集団的自衛権の行使容認派は中国や北朝鮮への抑止力として必要だと言うが、今の国際情勢の中で、どの国が日本に攻め込んでくるというのか。武力が抑止力になるという発想は20世紀の遺物。問題が起きれば、国際政治や外交交渉の中で努力して解決すべきだ。

 広島市西区出身。3歳の時に被爆した。1968年に児童文学の創作を始め、78年に「ズッコケ三人組」シリーズを開始。行使容認に反対する「戦争をさせない山口1000人委員会」共同代表を務める。

 僕らの世代は戦争はこりごりだと体で感じてきた。今はほんのりとした右傾化。改憲に賛成する若者も多い。今の教育の方向性が影響しているのでないか。

 安倍政権は、歴代の自民党内閣が堅持してきた憲法解釈をいとも簡単に変えた。以前なら党内に反対論もあり、安心感もあった。それが戦争を体験した政治家が減り、小選挙区制度や小泉政権の影響で「黒か白か」となった。本来はグレーもあるべきだ。

 第2次安倍政権は昨年12月、特定秘密保護法を制定。4月には「武器輸出三原則」を47年ぶりに全面的に見直し、武器禁輸政策も転換した。

 憲法9条を変えなくても「戦争できる国」になりつつある。今はまだ「種」の状態で見えにくいだけだ。このまま進めば10年後、20年後はどうなるだろう。現政権が選挙に勝てば、やりたい放題にならないか。日本の平和の在り方を問う選挙だと思っている。

(2014年12月11日朝刊掲載)

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