×

社説・コラム

[私の「争点」2014衆院選] 安保政策 具体的主張を

広島修道大教授・佐渡紀子さん(42)=広島市中区

 安倍政権はこの2年で、安全保障政策を大きく転換させた。集団的自衛権の行使容認や武器輸出三原則の見直しなどだ。安倍晋三首相は来年1月に始まる通常国会で集団的自衛権の行使を前提に関連法を整備する意向だ。ならば衆院選は、その議論のメンバーを決める選挙。政党や候補者がどんな主張を持っているか、慎重に見極めたい。

 安倍政権の考え方は力で相手を押さえつける「抑止」が中心。まずは、それを良しとするかどうかが判断の視点になる。安保政策の先には、米国の「核の傘」に依存する現状をどう判断すべきかという議論がある。

 日本国際問題研究所研究員などを務め、2005年4月に広島修道大助教授になり、14年4月から現職。専門は平和学と国際安全保障論。欧州の信頼醸成の仕組みなどを研究テーマとする。

 抑止重視の背景には緊迫する北東アジア情勢がある。中国の軍拡は急速で、北朝鮮の核開発は脅威だ。政権が抑止力に頼りたいと考えるのは理解できる。ただ、それはあくまで短期的な解決策。抑止という考え方だけでは軍拡の波にのまれる。

 日中、日韓の対話の場面が減っている。双方が本当に「会いたい」と求めなければ、会うことはできない。例えば欧州では、冷戦期から欧州安保協力機構(OSCE)という枠組みがある。加盟57カ国の対話の場だ。抑止力は一定に必要ではあるが、依存しすぎてはならない。緊張を緩和する取り組みを並行させていくことが大切だ。

 核の傘への依存は、より強い軍事力がより強い抑止力を持つという考え方に立つならば今後も続く。抜け出すには、中長期的な視点で協調の道を探らなければならない。それは被爆地広島の願いでもある。

 自民党は政権公約で安全保障法制を「速やかに整備する」と明記。野党側では賛否が分かれている。

 自民党の公約は姿勢を示しただけで中身が見えない。例えば、どういう場面で集団的自衛権を行使するのか各論を示してくれないと有権者は判断できない。野党にも課題はある。解釈改憲という手法を批判しながら、集団的自衛権の行使をめぐる賛否が明確ではない政党がある。対立軸が見えにくく、残念だ。

 安保政策について、政治家や政党は論戦で具体的な主張を示してほしい。同時に、有権者の側から問うていく姿勢も大切だ。(聞き手は長久豪佑)

(2014年12月12日朝刊掲載)

年別アーカイブ