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社説・コラム

社説 安倍政権継続へ 衆院選 あすへの道まだ見えぬ

 衆院選は与党の自民、公明両党が全議席の3分の2以上を確実にした。有権者は総意として、安倍政権の継続を選んだといえる。

 安倍晋三首相にとっても、自ら最大の争点と位置付けた成長重視の経済政策「アベノミクス」の継続にお墨付きを得た、となろう。

 首相自身は「2年間の安倍政権に信任をいただいた」と述べた。とはいえ大きく落ち込んだ投票率を加味して考えれば、そこまで言い切れるのかは疑問が残る。

論戦は終始低調

 アベノミクスにしても、首相が「この道しかない」と力説すればするほど、円安による物価高で実質賃金が目減りした国民からすれば、首をかしげたくもなろう。何より人口減少社会にあって、右肩上がりの成長を約束できるのか。

 その意味で、アベノミクスをどう修正するか、または成長一辺倒ではない代案を提示できるかが、野党にとって今回の勘所だったはずだ。ところが、実のある論戦は聞こえてこなかった。

 「ほかの道は本当にないのか」。多くの有権者には腹に落ちなかったのが率直なところだろう。そうしてアベノミクス批判票は分散するか、受け皿のないまま棄権につながったと思えてならない。

 前回、前々回とは異なり、有権者が政権を選び取る選挙ではなかった。このため選ぶ側も選ばれる側も最後まで熱気を欠いた。大義のない衆院解散に虚を突かれた野党は立候補者の人数が足りなかったり、選挙協力も中途半端に終わったりして、政権を奪うだけの覇気を示せなかったのも大きい。

 盛り上がりに欠けたのはそのためだけではない。与野党ともに、有権者にとって耳の痛い議論を避けたようにみえた。

格差という弊害

 首相も選挙戦最終盤の街頭演説で「景気回復の実感を地方や中小企業に行き渡らせる」と繰り返した。アベノミクスの恩恵が一握りの資産家や大企業にとどまっていることを認めた格好だが、格差の拡大をかねて指摘してきた地方からすれば、今更の感が拭えない。

 いま論じるべきは、むしろ人口も経済もマイナス成長となる時代の国づくりではなかったか。確かに政権が掲げる地方創生とは、東京への人口の流れを地方へと逆向きにすることが眼目であろう。だが税財源を地方に移譲する分権の道筋さえ見えてこない。

 安全保障政策もそうだ。自民党の公約に「集団的自衛権」の文字が見当たらなかったことが象徴である。賛否が分かれるテーマでの論議は一向に深まらなかった。これでは、関連する安全保障法制も賛同を得たとは言いがたい。

 すなわち与党に1票を投じた有権者にしても、全ての公約の実行を丸ごと「白紙委任」したわけではあるまい。政権を維持する首相はまずそこを肝に銘じてほしい。少数意見にも真摯(しんし)に耳を傾け、何事も丁寧に国民に説明する姿勢を貫いてもらいたい。  それを欠いたのが過去2年の安倍政治ではなかったか。国民の知る権利を脅かす特定秘密保護法の制定にみられるように、首相の政治姿勢は「国家」が前面に出るあまり、主権者たる「国民」、とりわけ弱者が後ろに追いやられているような気がしてならない。

 継続する政権が取り組むことになる社会保障制度改革は、それこそ国民本位で解決すべき課題だ。消費税再増税の延期を正式決定するだけになおさら、持続可能な制度の構築を急ぐ必要がある。社会的弱者を支える視点に加え、世代間負担の公平性も問われよう。

痛み語ってこそ

 あすの希望を語るのが政治であって、痛みを伴う近未来図には言葉を濁す。今回に限った風潮ではないが、そろそろ終止符を打たなければ、この国は立ちゆかない。

 この低投票率の真の要因が、厳しさを説くことを避け、ましてや己の改革も棚上げする政治を有権者が見限ったためだとすれば、事はいよいよ深刻である。

(2014年12月15日朝刊掲載)

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