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核軍縮会議ない「オフイヤー」 カットオフ条約 前進なるか 

■記者 岡田浩平

 マグロ船第五福竜丸が米国の水爆実験で被曝(ひばく)した日にあたる「ビキニデー」(1日)を節目に、2011年の核兵器廃絶を求める市民運動が活発化し始めた。しかし、今年は核軍縮の大きな会議がない「オフイヤー」。被爆国として兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約や核兵器禁止条約の交渉開始など前進へ地道な努力が求められる。

 静岡市で1日にあった原水禁国民会議の集会。川野浩一議長は「核をなくす具体策を私たちが決めていかねば」と力を込めた。日本原水協などは同日、静岡県焼津市での集会で核兵器禁止条約の交渉開始を求める署名運動の拡大を誓った。

 昨年5月に米ニューヨークの国連本部であった5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は核軍縮の「岐路」と目され政府、非政府組織(NGO)とも成功へ力を注いだ。会議では核保有国への妥協もあったが「核兵器のない世界」へ64の行動計画を柱とする最終文書を採択した。一転、今年はNPT準備委員会もない。

 こうした中、政府が重点課題に位置付けるのは行動計画にもあるカットオフ条約の交渉開始だ。2月14~16日、日本とオーストラリアの両軍縮大使共催で、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で条約に関する専門家会合を開いた。

「議論 価値ある」

 条約を扱うジュネーブ軍縮会議(CD)がパキスタンの消極的な態度で交渉入りさえできない事態の局面打開に、「サイドイベント」として構えた。加盟国の半数を超す約40カ国の大使らが出席し、核分裂物質の定義などを話し合った。外務省は今後も会合を重ね、CDへの提案も視野にする。

 一方、CDでの1月27日の須田明夫軍縮大使の演説がNGOの注目を集めている。核兵器禁止条約に関し「核軍縮の最終段階で条約がどうなるか、長期的な観点から議論に参加したい」と述べた。米国の軍縮大使も昨年9月に「議論する価値がある」と発言。須田大使もこれに歩調を合わせた形だ。

 外務省軍備管理軍縮課は「今すぐ議論するのは時期尚早という従来の立場から出てはいない」とする。しかし、多くの非核保有国やNGO、国連の潘基文(バンキムン)事務総長が条約の交渉を訴え、NPTの最終文書にも「交渉検討」が盛り込まれた流れが、大使の発言の背景にあるのは確実だ。

 交渉開始を求めるNGO、ピースボートの川崎哲共同代表は「政府が外交演説で前向きな意志を示したのは重要な一歩だ」とし、今後の動きを注視する。

不安材料尽きず

 ただ、前向きな話ばかりではない。イランや北朝鮮の核問題、不透明な中国の核戦力など不安材料は尽きない。日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターの戸崎洋史主任研究員は「核兵器のない世界を語れる状況を維持できるかどうかが重要だ。各国の核戦力の透明性の向上など地道な努力も求められる」と指摘する。

 「核のない世界に向けて果てしなき道がまだ続いている」。前原誠司前外相は2月の記者会見でこう語った。被爆国として力強く道を切り開く姿勢が問われる。

(2011年3月8日朝刊掲載)

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