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連載・特集

廃炉の世紀 第2部 日本の選択 <9> 見えない出口(島根原発1号機)

心臓部開く「大手術」 交換部品の処分策なく

 存廃の判断を迫られている中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の1号機。仮に廃炉を進めることになった場合の課題は、10年余り前の「大手術」からうかがい知ることができる。

 深さ約8メートルのプールの中に、使い終わった制御棒が沈んでいた。島根原発の敷地内に、放射線量の高い廃棄物を集中保管する「サイトバンカ」と呼ばれる建物がある。10年余り前に1号機から取り出した主要部品の炉心隔壁(シュラウド)も、収められている。

 1号機は2000~01年に約10カ月間かけて、格納容器の中にあるシュラウドを取り換えた。他の古い沸騰水型軽水炉(BWR)でひび割れが発生する事例が相次ぎ、対応を迫られた。シュラウドは高さ約7メートル、内径約4メートル、重さ約30トン。原発の心臓部を開く大手術で「今に至るまで島根原発で過去最大の工事だ」と、島根原子力本部の井田裕一広報部長が振り返る。

 シュラウド交換は、放射能との闘いになった。シュラウドなど炉内の設備は運転中に燃料が発する中性子を近距離で受け、自らが放射線を放つ物質に変質する。そのため高い線量下での交換作業を強いられた。

 まず最初に、薬品で放射性物質を含んだ鉄さびなどを洗い流す。放射線を遮蔽(しゃへい)するために、水を満たした炉内でシュラウドや付属設備を遠隔操作によって切り離し、炉心そばのプールに移してさらに細かく切断した。ただ一部機器の据え付けは、作業員が炉内での作業を余儀なくされた。

 ピーク時で1日約700人の作業員を投入し、交換は計画より約20日も早く終わった。工事に参画したプラントメーカーの内部には「経験は今後の廃炉に生きる」との意見がある。ただ発生した放射性廃棄物約50トンをどう処分するか、解決策は今も見つからない。

 サイトバンカには使用済みの制御棒なども眠る。これら「レベル1」と呼ばれる放射能レベルが比較的高い廃棄物は、地下50メートルより深くに埋設する想定だ。電力会社が共同処分場をつくる方向だが見通しはなく、現状は廃棄物の「出口」が見えない状態だ。

 このため東海発電所(茨城県東海村)では廃炉作業に遅れが出ている。原子力規制委員会の田中俊一委員長は「最終処分場を見つけるのはそう容易ではない。いかに安全に管理するかを議論したい」とし、廃棄物が敷地内にとどまる事態への対応も示唆する。

 「原発がなくなっても核のごみは残る。どうすべきか、正直まだ分からない」。島根原発・エネルギー問題県民連絡会の北川泉共同代表(83)=島根大元学長=はこう話す。「結論を急げば、地域に混乱や分断を招きかねない。住民や専門家の議論の場をつくり、時間をかけて対話を重ねる必要がある」と考えている。

炉心隔壁(シュラウド)
 炉心と圧力容器を隔てる円筒状のステンレス製構造物。燃料集合体を支えたり、冷却水の通路を造ったりする。1970年代に建造された沸騰水型軽水炉(BWR)で、冷却水中の酸素が影響したシュラウドのひび割れが相次ぎ、別の素材に交換する電力会社が相次いだ。

(2014年12月17日朝刊掲載)

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