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社説・コラム

社説 パキスタン学校襲撃 子どもを標的 許せない

 何とむごいことであろう。

 イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が同国北西部にある陸軍運営の学校を襲撃し、生徒ら140人余りが犠牲になった。

 TTPは、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんを2年前に銃撃した過激な組織である。無防備な学校を標的にし、何の罪もない子どもたちを狙った卑劣な犯行に、強い憤りを禁じ得ない。

 「愚かで冷血なテロ行為によって、私は胸が張り裂けるような気持ち」。マララさんは非難声明を発表している。銃弾を浴びてもなお教育の必要性を訴える声はテロリストには届かず、悲劇が繰り返されている。

 武装勢力は、各教室を回って無差別に発砲した。武装メンバーによる自爆テロに巻き込まれた生徒も多いという。さらに、駆け付けた治安部隊との間で銃撃戦が起きた際、子どもたちを立たせて「人間の盾」にしたとの報道もある。

 TTPは、2001年9月の米中枢同時テロを受けて国際テロ組織アルカイダなどを相手に戦争を始めた米国と、それに協力したパキスタン政府や軍に強い反感を抱く組織である。07年に発足し、パキスタン北西部でテロ活動を繰り返してきた。

 今回の襲撃は、シャリフ政権が進める掃討作戦への報復とみられている。6月以降、政権側は北西部への軍事行動を強化しており、一部地域では泥沼化しつつあるようだ。

 TTPは「掃討作戦の停止と、拘束されている仲間に対する虐殺をやめない限り、引き続き襲撃する」と主張している。つまり、政府軍と武装勢力側との間で報復の連鎖が広がりつつあるのだろう。

 ただ、どんな背景があろうとも、子どもたちを標的にする行為が正当化されるはずはない。

 今回の襲撃事件を受け、シャリフ首相やオバマ米大統領、英国のキャメロン首相が相次ぎ非難声明を出すなど、TTP包囲網が狭まりつつある。TTPはアルカイダや、外国人戦闘員を加えて中東で台頭する過激派「イスラム国」と連携の動きがあるとされる。国際社会で今後、武力によって過激派を封じ込めようとする流れが加速する可能性があろう。

 テロには決然と立ち向かうことは当然である。ただ武力による解決には限界があり、子どもたちがさらに犠牲になる現実を忘れてはならない。

 例えば、米中枢同時テロの後、米軍はアフガニスタンを空爆し、イスラム原理主義のタリバン政権を倒した。03年のイラク戦争でもフセイン政権を倒し親米政権を樹立した。

 しかし空爆は数多くの子どもたちも巻き添えにした。親を失った子どもたちは、洗脳されて反米思想を強め、イスラム過激派の少年兵になった例も多いとされる。

 だからこそ国際社会は、対話によって武装解除を進め、貧困対策や経済振興を図るなど、息の長い取り組みを進める必要があろう。

 日本は、戦時下にあまたの子どもたちにも犠牲を強いたことを教訓に、平和国家として歩んできた。子どもたちを守り、これ以上、テロや内戦を拡大させないために何をすべきか。中東への関心を引き続き高めたい。

(2014年12月18日朝刊掲載)

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