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連載・特集

大虫は今 住民4人の集落から <上> 子育て 

自然の恵み 伸び伸び 病院・学校遠く不安も

 廿日市市の中山間地域にある大虫集落は、この1年間で住民が2世帯4人に半減した。先行きが危ぶまれるが、移住した若い夫婦が子育てをし、集落を離れた元住民が田畑を守り、空き家を購入して趣味の場に活用する都市住民もいる。小さな集落が直面する現実を大虫から報告し、地域再生へのヒントを中国地方で探る。(村上和生)

 雪玉を投げたり、そりで滑ったりしてはしゃぐ親子の声が山あいに響く。大虫集落で2回目の冬を迎えた楠田泰久さん(32)、瑞穂さん(32)夫妻が、自宅前で長男楓羽太(ふうた)ちゃん(2)と遊ぶ。

 福島第1原発事故をきっかけに栃木県から移住して1年半余り。自然に囲まれ、楓羽太ちゃんは伸び伸びと育つ。メダカやオタマジャクシを自宅前の水路で観察し、畑で収穫したての野菜を頬張る。夏の夜には庭に舞い込むホタルを見た。泰久さんは「子どもが生きる知恵を身に付けられる。これ以上の子育て環境はない」と表情を緩める。孫やひ孫のように成長を喜んでくれるお年寄りや農作業に通う元住民の存在も心強い。

 泰久さんは集落の将来を案じ、今春から行動を始めた。子育て世代が山に触れるきっかけにと知人たちを招き、裏山でタケノコ掘りの催しを開いた。元住民が開く「さくらまつり」ではカフェを出し、来訪者をもてなした。麓でヨガの講師も務める泰久さんは「大虫の澄んだ空気の中での体験は格別」と自宅で親子教室の開催も思い描く。

 一方で、麓との距離を痛感する出来事もあった。10月末のこと。自宅で遊んでいた楓羽太ちゃんが玄関に転落し、頭から出血が止まらなくなった。沿岸部の病院は約15キロ先。119番から受診まで1時間以上かかった。「もっと大きなけがや急病のとき、一体どうすればいいのか」。初めて不安を覚えた。

 冬は積雪で道路がふさがると、移動できない不便もつきまとう。来年3月には第2子が誕生する。「子どもが小中高校と進むにつれて、冬の通学が負担になる」と心配は消えず、新たな移住を集落に呼び込むのは難しいとも感じる。だが「ここで暮らし続けたい。大虫に根付き、大虫を支えたい」と話す。

参考事例・島根県津和野町

体験会で移住PR NPO法人さぶみの 益成典子理事長(61)

 津和野町の左鐙(さぶみ)地区で、子どもが牛の世話や野菜作り、山遊びを楽しむ月1回の体験会や夏休み合宿を開いている。左鐙小の児童が10人に減ったのをきっかけに、地元の主婦や会社員約30人で2007年から始めた。都市部の親子と交流を深め、移住を考えてもらうのが狙いだった。

 福島第1原発事故後、関東地方の親子を体験会に招いた効果もあり、これまでに子育て中の9世帯がU・Iターンしてくれた。子どもは移住後の誕生も含めて16人増えた。移住先に選んでもらうには住民が親身に寄り添い、一緒に暮らせそうと安心してもらうことが大事。空き家の貸し出し交渉や改修にも取り組んでいる。

 木の棒1本でも工夫して遊ぶ子どもの生き生きとした姿をブログで発信し、関心を持つ人が増えてきた。昨春から未就学児が自然の中で一日を過ごす活動も始めた。大人も一緒に満喫できる環境をつくり、さらに移住につながればと期待している。

(2014年12月18日朝刊掲載)

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