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社説・コラム

現場発2014 自衛隊の救助犬 脚光 「先進地」海自呉の実情は- 

 大規模災害の多発を受けて、自衛隊で救助犬を育てようという機運が芽生えている。不明者捜索に力を発揮し、隊員の救助活動の助けになるからだ。ただ育成に携わる人材の養成といった多くの困難が横たわる。陸海空3自衛隊で唯一、救助犬がいる海自隊呉地方隊(呉市)で実情、課題を探った。(小島正和)

 呉地方隊の呉造修補給所貯油所(吉浦町)は、呉湾と山に囲まれた約32万平方メートルの敷地を有する。施設を守る警備犬が19匹。うち2匹は国際救助犬連盟の資格を持つ。ジャーマン・シェパードの雄「妙見丸」「多聞丸」。ともに広島土砂災害の現場にも投入された。

 布施壮一所長(2佐)は「警備犬の優れた能力を引き出した結果。救助犬ありきではない」と説明する。2008年に本格的な育成に乗り出したが、あくまで付加的な任務だという。

災害派遣に重み

 自衛隊の災害派遣任務の重みは増し、がれきなどに埋まった人を捜す救助犬も注目を集める。元呉地方総監で、貯油所の救助犬育成を支援するNPO法人救助犬訓練士協会(神奈川県藤沢市)顧問の山田道雄さん(69)は「捜索、救助と自己完結するチームが組め、活動が効率化する」と自衛隊が救助犬を持つ意義を説く。

 だが「先進地」の貯油所にも課題はある。代々、訓練士は自衛官の訓練を受けていない事務官が担ってきた。宮城や広島の過酷な現場で、他部隊の自衛官との意思疎通や調整能力などの面で不安は残ったという。

 訓練に当たる事務官は現在、62歳、57歳、41歳の3人。それぞれ定年退職後は自衛官に業務を引き継ぐと決まっている。訓練士育成には5年はかかるとされ、後継者養成が急がれる。62歳事務官の後任含みで女性自衛官を1人配置したが、定期異動のある自衛官では犬との信頼関係を築きにくいとも。訓練技術の伝承も円滑に進むか未知数だ。

他部隊へ広がり

 東日本大震災を機に空自隊基地の一部や神奈川県の海自隊横須賀地方隊も救助犬育成に乗り出した。ただ防衛省によると、現時点で自衛隊全体での救助犬育成の方針はない。貯油所と同様に部隊などがそれぞれの裁量で、独自に取り組んでいる。布施所長は「ノウハウを蓄積、適切な判断材料を提供できるようにする」と強調。自衛隊業務に組み入れられた場合、円滑に始められるよう備えておく必要があるというわけだ。

 広島市によると8月の土砂災害では30団体が現場に入り、救助犬も7日間で延べ108匹が活動した。NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(広島県神石高原町)は「民間は小回りが利くが、現場での判断や調整力に課題がある。自衛隊の人員、物資の輸送力も生かした連携を望む」と自衛隊にエールを送る。

 災害派遣への期待が高まっているとはいえ、自衛隊の主任務は国防。救助犬育成に多くの予算や労力を割くのは難しいだろう。ただ高度な訓練を受けた隊員や設備がある公的機関が救助犬を持つ意義は大きい。民間とも協力、力を発揮できる仕組みづくりが必要だ。

救助犬
 優れた嗅覚で、がれきや家屋の下敷きになった人を捜す。国内では救助犬訓練士協会(神奈川県藤沢市)災害救助犬ネットワーク(富山市)などのNPO法人が中心となって犬や訓練士を育成。国内統一の認定基準がなく、現場で犬の捜索能力の格差が問題になるケースもあるという。公的機関では、警視庁が1994年から育成を始め、国際緊急援助隊として海外派遣した。北海道、熊本、鹿児島の3道県警も独自に育てている。

(2014年12月18日朝刊掲載)

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