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福島第1の放射線量 広島大原医研 神谷研二所長に聞く

■記者 金崎由美

「健康障害 考えにくい」 不安の解消へ正しい情報を

 東京電力の福島第1原発で放射性物質が外部に漏れた事故は、国内外に衝撃を与えた。現在明らかになっている放射線量は、住民の健康にどれだけの影響を与えるのか。13日、広島大原爆放射線医科学研究所(広島市南区、原医研)の神谷研二所長に聞いた。

 ―今回の事態をどう受け止めていますか。
 起きてはならないことが起きた。深刻な事態だ。ただ、13日午後に原発周辺で検出された「毎時1557.5マイクロシーベルト」という放射線量自体は、測定地点にいても健康障害を引き起こすほどではないだろう。

 ―分かりやすく示してください。
 胃のエックス線写真を撮影した場合、その瞬間に0.6ミリシーベルト(600マイクロシーベルト)の放射線を浴びる。原爆被爆者の間では、100ミリシーベルト(10万マイクロシーベルト)以上の線量を被曝(ひばく)した人だとがんの発症リスクが上がることが、分かっている。

 ただ、だから低線量被曝は人体に影響がない、ということではない。疫学的に有意な差が出ていないため分からない、という意味だ。被曝線量はゼロが一番だ。

 ―なすべき対応は。
 健康被害の発生は現時点で考えにくいとはいえ、住民が不安を抱くのは当然だ。住民の被曝状況や規模を正確にとらえ、正しい情報を出し、必要な医療を迅速に施すべきだ。

 しかし、被災地が混乱し、われわれにも情報がなかなか入ってこない。災害時に必要な情報ルートが確保されていないようだ。これは大変な問題だ。

 ―このような事態がさらに起きた場合はどう対処すればよいでしょうか。
 窓や換気扇を閉め、外気を入れない。屋外に出る場合はマスクやぬれタオルで口を覆う。汚染の可能性があるものは避けるに越したことはない。

 今回のような被曝程度では、除染をするだけでほとんど取り除ける。傷がある場合はそこから放射性物質が沈着する場合があるので、治療が必要だ。

 ―広島大の緊急被ばく医療チームが現地入りし、活動を始めましたね。
 重症患者の治療拠点として国から指定されている医療機関は、全国でも広島大を含め2カ所だけ。原爆被爆者の苦しみの上に蓄積させてもらった知識や技術を、実際に苦しむ患者が出た場合はしっかりと生かすのがわれわれの役割。どんな局面になっても貢献できる体制を組んだ。

かみや・けんじ氏
 1977年、広島大医学部卒。広島大助手、米ウィスコンシン大助手などを経て、1996年広島大教授。2001年から原医研所長。2005年まで2期連続で務め、現在は通算3期目。2004年からは同大緊急被ばく医療推進センター長も務める。専門は放射線障害医学。

(2011年3月14日朝刊掲載)

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