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連載・特集

大虫は今 住民4人の集落から <下> 空き家 

自分で改修し愛着湧く 傷みが進んだ家屋も

 廃材で組んだ自作のいろりで暖を取る。廿日市市虫所山の大虫集落に残る築97年の木造平屋。鳴高秀雄さん(77)、芙美子さん(73)夫妻が、趣味のステンドグラス作りの合間にくつろぐ。広島市佐伯区の自宅から通い、「第二の人生」を満喫する。

 都市部で生まれ育った秀雄さんは26年前、定年退職後の田舎暮らしを思い描き、この家を購入した。20年間は空き家だったため、住める状態には程遠かった。かやぶき屋根に穴が開き、ガラス窓や床板はなく、井戸水を引くポンプも壊れていた。

 休日を利用し、約10年がかりで改修した。親戚や知人から不要になった建材を譲り受けて使い、秀雄さんは「工夫して直したから気に入っているよ」と笑う。

 定年後は、冬を除いて週に2、3日は大虫に滞在する。集落を離れた元住民たちが4月に1週間開いた「さくらまつり」では、カフェや演奏会の会場として開放した。

 購入当時、集落には十数戸の家に25人ほどが暮らしていたが、今は4人だけに減った。秀雄さんの傘寿が近づき、片道1時間をかけて車で行き来する夫妻は「大虫に通えなくなったら家をどうしようか」と考え始めた。外壁を塗り直すなど、小まめな手入れで古民家は命脈を保っている。廿日市市や県外に嫁いだ娘3人とその夫たちは、引き継ぐつもりはないという。

 南北約700メートルの集落には16戸の家屋が残るが、暮らしているのは2戸だけ。農作業に通う元住民の家や市の空き家バンクに登録して移住者を待つ家もあるが、傷みが進む家屋も目立ち始めた。「仕事でも趣味でも、空き家を生かす手はあるはず。この家も、いずれは誰かに役立ててもらいたいね」。芙美子さんのつぶやきに愛着がにじむ。(村上和生)

参考事例・山口市

住居以外で活用も おんなたちの古民家 松浦奈津子代表理事(33)

 昔の生活や文化を感じられる古民家の魅力を情報発信するため、2011年に一般社団法人を設立した。主に山口県内で移住希望者と空き家の所有者、古民家に詳しい建築業者の間を取り持ち、空き屋の再生に取り組んでいる。

 山口市阿東地区に江戸期から残る古民家を法人で購入した。改修して昨年秋に民宿を開き、田舎暮らしを提案している。いろりや露天風呂を備え、床は今風にフローリングにした。民宿の近くで米を栽培し、ブランド化にも挑んでいる。住む家だけでなく、働く場や地域の魅力がないと、移住を呼び込めないからだ。

 空き家を住居以外で活用する事例も広がっている。友人が高齢者デイサービス施設向けの物件を探していたので、大虫集落と同じ廿日市市佐伯地域にある築約100年の家を紹介した。開業から2年半になるが、利用者は立派な梁(はり)のぬくもりを感じながら手芸や囲碁を楽しみ、庭木の手入れに熱中している。都市部にはない魅力的な施設だろう。

(2014年12月20日朝刊掲載))

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