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社説・コラム

社説 サイバー攻撃 新たな脅威の対応急げ

 北朝鮮をめぐる状況が予想外の展開で緊迫化してきた。金正恩(キムジョンウン)第1書記をやゆする米国のコメディー映画が発端だ。製作したソニー子会社へのサイバー攻撃に加え、テロ予告で劇場公開が中止される事態を招いた。

 米連邦捜査局(FBI)は北朝鮮政府の関与した攻撃と断定した。それを踏まえ、オバマ大統領は6年前に解除された「テロ支援国家」への再指定も含む対抗措置の検討を表明した。

 北朝鮮は米側の見方に強く反発している。だが犯行を否定しつつ、報復としてサイバー攻撃をちらつかせる姿勢は理解しがたい。このところ直接対話が進む雰囲気のあった米朝関係の悪化は避けられまい。

 北朝鮮のサイバー攻撃には、かねて韓国から強い懸念が示されていた。大規模な専門部隊が存在するとされ、昨年3月には韓国の金融機関やテレビ局のコンピューターがハッキングされる事件を引き起こした疑いも持たれている。

 今回の事件では映画製作会社のコンピューターシステムが破壊され、機密や個人情報が盗み出された。FBIはプログラムやアクセスの手口から、北朝鮮の犯行と分析したようだ。

 金第1書記が父の死去で権力の座に就いて3年。独裁体制は敷いたが忠誠心の薄れが指摘される。人権をめぐる国連の非難も強まっている。そうした中で最高指導者が実名で登場し、暗殺されるという娯楽映画にことさら腹を立てたのだろう。しかし、言論ではなくサイバー攻撃で仕返しをしたとすれば、明らかに常軌を逸している。

 米国は関係改善の機運を捨てて強硬姿勢に出た格好になる。民主主義の原則である表現の自由が脅かされたことは看過できない。加えてサイバー攻撃の実情をこの際、国際社会にさらけ出して排除につなげたい。そんな意図も感じられよう。

 だからこそ、ケリー国務長官が中国の王毅外相との電話会談で協力を求め、「いかなるサイバー攻撃にも反対する」との言質を取った意味は小さくない。北朝鮮が頼るインターネット回線のほぼ全てが中国を経由する事情ばかりではない。その中国自身が情報収集などのために米国に盛んにハッキングを仕掛けてきたとみられている。

 当然、日本としても無関係ではいられない。そもそも被害を受けた企業の親会社は国内の主要メーカーである。米国からも日本政府には関連情報の提供が既にあったという。

 仮にテロ支援国家に再指定されるなら、ただでさえ遅れている拉致問題の交渉に影響するかもしれない。しかし今は見えざる脅威をしっかり受け止め、国際社会と歩調を合わせて対応と備えを急ぐ段階ではないか。

 米国は報復として、北朝鮮側のシステムの破壊工作などサイバー攻撃を仕掛けるという見方もあるようだ。電脳空間を通じた情報収集力や攻撃力では米国が世界一といわれている。

 サイバー戦は通常の戦闘行為と異なり、国際法上の歯止めとなる「交戦規定」が確立していない。米朝がエスカレートすれば制御できない報復の連鎖を招きかねず、日本が巻き込まれる恐れもあろう。北朝鮮に毅然(きぜん)とした姿勢を示しつつ、状況によっては双方に自制を求める役回りも想定しておきたい。

(2014年12月23日朝刊掲載)

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