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追跡2014 中国地方の現場から 空中給油機移転 見通せぬ岩国の将来像

 7月15日正午前。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)から、KC130空中給油機部隊の一番機が岩国市の米海兵隊岩国基地に到着した。「この上ない素晴らしい機会。岩国の所属機をより近い距離から支援できる」。基地に降り立った海兵152空中給油輸送中隊司令のマシュー・ストーバー中佐は、給油や人道援助への即応性を強調した。

 在日米軍再編に伴い、岩国基地には8月下旬にかけて、普天間飛行場の給油機15機が隊員や家族約870人とともに移転。政府は「沖縄の負担軽減」の実績に位置付ける。

 菅義偉官房長官は9月に岩国市を訪れた際、協力への「見返り」として基地負担が増える都道府県を対象とした新交付金制度の創設に意欲を示した。そして「極東でも有数の基地になる可能性がある」と岩国基地の将来像に言及した。

 岩国基地にはさらに、米海軍厚木基地(神奈川県)から2017年ごろまでに空母艦載機59機が移転する予定だ。隊員や家族計約3800人も移る。同年には最新鋭ステルス戦闘機F35も配備され、機種更新が進む見通しだ。米国が安全保障戦略の重点を置くアジア太平洋地域での存在感は確実に高まっている。基地内では再編関連工事が急ピッチで進み、姿を大きく変えつつある。

 基地の外にも再編の波は押し寄せる。艦載機移転を踏まえ国は5月、市中心部に近い愛宕山地域開発事業跡地で米軍家族住宅や市民も共同利用できる運動施設の整備を始めた。敷地造成工事に先立ち、中国四国防衛局は周辺の3カ所で説明会を開いた。

 だが、計画の詳細や犯罪対策などの説明を求める参加住民と防衛局のやりとりはずっとかみ合わなかった。市などは市民を対象とした計画全体の説明会の開催を繰り返し要望。実施設計が10月末に完了し、防衛局は開催の検討を進めている。

 市は本年度まとめた市総合計画に「米軍基地と共存するまち」を初めて掲げた。国には43項目の安心安全対策や地域振興策を要望しており、福田良彦市長は「受け入れの判断はその協議の先にある」とする。「愛宕山を守る市民連絡協議会」の岡村寛世話人代表(71)は「『市民の理解を得たい』というのはいつも言葉だけ。岩国の将来がどうなるのか、国と市は米軍に流されず主体性を持って説明してほしい」と望む。

 一方、11月の沖縄県知事選で普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する新知事が誕生。艦載機移転の前提である普天間移設の見通しが立たない状況になれば、市の判断に影響する可能性もある。(野田華奈子)

KC130空中給油機
 空中や地上で、米海兵隊と米海軍の航空機に給油する任務のほか、部隊や物資の輸送に当たる。機内や外付けのタンクからホースを通じて燃料を送る。最大輸送人員は92人。短い滑走距離での発着が可能という。米軍普天間飛行場には垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ24機に次いで多い15機が配備されていた。米海兵隊岩国基地には移転前にもたびたび飛来していた。

(2014年12月24日朝刊掲載)

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