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道徳教科化18年度実施へ…戸惑う現場 「愛国心」教え方に懸念

 中央教育審議会の10月の答申を受け、2018年度以降に小中学校で道徳が正式な教科となる。答申が示す検定教科書と評価が導入されれば、道徳教育の大きな転換となる。現場では「教え方は大きくは変わらない」との見方がある一方、心の内面を評価する難しさや、価値観の押し付けにつながりかねないことを懸念する声が出ている。(馬場洋太)

 呉市の阿賀小で今月中旬、新田開発に尽くした郷土の先人を題材とした5年生の道徳の授業があった。担当する脇田文子教諭が「藩に干拓を願い出たときの気持ちは」と問い掛けると、児童は「村人を助けたい」「住みやすい阿賀にしたい」と活発に発表。「地域のために何ができるか」についても話し合った。

 脇田教諭は「問い掛けを繰り返すことで、子どもの声をできるだけ引き出し、自発的な意欲が湧くよう心掛けている」と話す。

独自教材認める

 現行の道徳は正式な教科ではない。学習指導要領で小学1年生が年34時間、小学2年生~中学3年生は35時間を確保し、礼儀や愛国心、国際理解など学ぶべき項目を定めている。地域、学校の独自の教材や文部科学省が配る副読本などを使う。

 答申では、授業時間は現状を維持。検定教科書を導入し、授業内容を全国共通に近づける。独自教材は認める。文科省は答申に基づき、本年度中にも指導要領を改定する。

 広島県内の現場では「評価の在り方」への戸惑いが広がっている。答申は「道徳性は数値評価になじまない」と文章での評価をするとした。ある小学校長は「評価を字にして褒めれば、子どもが達成感を味わえる利点はあるが、授業中に建前を言い、日々の行動が伴わない子の評価は難しい」と明かす。

 「価値観の押し付け」をめぐっては、答申は「道徳教育が目指す方向と対極」と指摘。県小学校教育研究会道徳部会長でもある中野小(広島市安芸区)の金本文雄校長は「道徳で考えを引き出し、学級指導で反省を求める話をするなどすみ分けができている。押し付けの心配はない」とみる。

 一方で、愛国心の教え方については懸念が根強い。道徳の前身に当たる戦前の「修身」が軍国少年・少女を育てた苦い記憶があるからだ。答申の原案をまとめた中教審専門部会で主査を務めた、昭和女子大の押谷由夫教授は「日本の良さを知り、他国も思いやるのが愛国心。戦前への逆戻りはいけない」とし「憲法が歯止めになる」とする。

「不満制御狙う」

 教育史に詳しい東京学芸大の大森直樹准教授の見方は少し違う。「社会の格差が拡大する中、反体制に向かいかねない若者の不満を、道徳教育の強化で制御したい狙いが透けてみえる」

 愛国心の押し付けにならないよう、県東部の50代の小学校男性教諭は「差別された人は国を好きになれないかもしれない。だから国民に愛される国になることが大事だ」と教えている。

 ただ、教科化を機に「政権の意向に過剰反応する教育委員会が、教え方に横やりを入れてくる可能性はある」と受け止める。同県では旧文部省の是正指導後、一部の教委が道徳の板書の内容や感想文の提出を求めるなど、監視を強めた経緯があるからだ。

 大森准教授は「02年に福岡市の小学校が愛国心を3段階で評価して問題になったように、現場が先走ることはあり得る。新指導要領や検定教科書の中身がどうなるかも含め、注視していく必要がある」と指摘している。

(2014年12月28日朝刊掲載)

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