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社説・コラム

社説 アフガンの行方 「イラク化」防げるのか

 「テロとの戦い」が、一つの節目を迎えたといえよう。

 米中枢同時テロを機に、米国がアフガニスタンに侵攻して13年。米軍を中核とする国際治安支援部隊(ISAF)が、年内に同国の戦闘任務を終える。

 反政府武装勢力タリバンを一掃する軍事行動は今後、現地のアフガン側に引き継がれることになる。

 だが、治安は悪化の一途をたどる。シナリオ通りに撤収が進むのか、国際社会は引き続き、注視しなければならない。

 「われわれの戦争は責任ある終結を迎える」―。オバマ大統領は今回、そう述べた。イラク、アフガンの二つの戦争を自らの手で終結させることを、政治的な「レガシー(遺産)」としたいのだろう。

 確かに、ピーク時に10万人規模だったアフガン駐留米軍は2016年末までに完全撤退する予定だ。一国の治安を外国軍が握り続ける状況は異常であり、改善される意味は大きい。

 しかし、「責任ある終結」との言葉にうなずける人が一体どれほどいるだろう。

 国連によると、アフガンで紛争に巻き込まれた民間人の死傷者はことし1~11月で約9600人に上る。調査を始めた09年以降で最悪の数字である。米兵の死者も13年間で2千人以上を数えており、米本土でも厭戦(えんせん)気分が広がっていた。加えて米国が投じた復興関連の経費は、この夏までで1040億ドル(約12兆5千億円)に及ぶ。

 今回の「戦闘終結」は、これ以上の関与が政治的に困難となり、手を引かざるを得なかったというのが本質ではないか。

 懸念されるのは、アフガンの「イラク化」である。イラクでは11年に米軍が部隊を撤退した後、過激派イスラム国の台頭を招いた。その後、米軍は空爆再開を余儀なくされ、泥沼状態となりつつある。

 米軍による無人戦闘機の誤爆では、アフガンでも数多くの民間人が巻き添えとなっている。治安の悪化とともに反米感情が広がり、イラクの二の舞いとなる恐れは拭いきれない。

 アフガンの政治の安定と警察機能の強化は急務だろう。9月に就任したガニ大統領は政権基盤が弱く、いまだに組閣できない異例の事態が続いている。政治の混乱で、治安のために打つ手が遅れてはなるまい。国際社会で支援を急ぎたい。

 13年間にもわたる戦争が何をもたらしたのだろう。テロの根絶を掲げた軍事作戦は泥沼化し、気が付けばテロの温床はイラクやシリア、アフリカなどに拡散している。対テロ戦の出口は、今も判然としない。

 武力には武力で、というやり方が、憎悪の連鎖を招いてきた面は否めまい。国際社会は、この反省の上に今後の行動を見定める必要がある。

 これから重要になるのは、貧困の解消や教育といった非軍事の取り組みに違いない。日本はアフガン支援に55億ドル(約6600億円)を拠出し、学校や病院などを建設してきた。国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所も、人材育成に尽力してきた。

 安倍晋三首相は年明けから中東を歴訪し、地域の安定化への協力を伝える方針という。非軍事分野への貢献でイニシアチブを取ってもらいたい。

(2014年12月30日朝刊掲載)

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