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連載・特集

非核世界どう実現 被爆70年 NPT再検討会議 今春NYで開催 

 米国による広島、長崎への原爆投下から70年となることし、核拡散防止条約(NPT)再検討会議が米ニューヨークの国連本部で4月27日から5月22日まで開かれる。加盟する190カ国の政府代表が、核軍縮や不拡散の在り方をめぐって交渉を繰り広げる5年に1度の会議だ。発効から45年。NPTの歩みを振り返り、今春の会議を展望する。(田中美千子)

兵器不拡散 一定の評価

軍縮は進展せず  「不平等」「形骸化」批判も

■NPTの意義

 1945年8月、米国が広島、長崎に相次ぎ原爆を落とした。その悲惨さに目を背け、破壊力にとりつかれたのが各国の為政者たち。冷戦下の軍拡競争の中で、60年代までにソ連、英国、フランス、中国が核実験に成功した。これ以上、核兵器保有国を増やすまいと、国際社会が70年に発効させたのがNPTだ。

 条約は三つの柱からなる。一つが「核軍縮の推進」。米ロ英仏中の5カ国にだけ核兵器を持つ「特権」を認める代わりに、核兵器を減らすための誠実な交渉を義務付ける。

 次に「核兵器の不拡散」だ。核兵器や関連資材、技術が世界に広がらないよう、保有国が他国に譲るのも、持たない国が開発するのも禁じている。

 もう一つは「原子力の平和利用」。核兵器を持てない加盟国が、原子力を発電や医療などに使う権利を認めている。ただ、その技術を高めれば兵器へ応用できるだけに、正しく使っているか、国際原子力機関(IAEA)のチェックを受けないといけない。

 この仕組みは機能してきたのだろうか―。

 67年の国連の研究報告によると、核開発の潜在的な能力がある国は、核兵器保有5カ国以外に相当数あったという。核拡散に一定の歯止めをかけてきたと評価する専門家は多い。また、核軍縮の法的義務を課した条約はNPT以外にないのも現実だ。当初は25年の「期限付き」条約だったが、国際社会は必要性を認め、95年に無期限延長を決めた。

 一方、条約未加盟のインドが74年、初の核実験を実施。その後もパキスタンや北朝鮮が核実験に成功し、事実上の保有国とされるイスラエルを含め、保有国は9カ国となった。また核軍縮が進まず、約1万6300発の核弾頭が世界に現存する。「不平等」「形骸化」の批判もつきまとう。

■分かれた成否

 加盟国は75年以降、5年ごとに条約の運用状況を確かめる再検討会議を開いてきたが毎回、成否は分かれる。2000年には、将来に向けた核軍縮措置を盛り込んだ最終文書に合意。05年は一転、決裂した。米中枢同時テロを受け、米国が核削減より核拡散阻止を重視。非保有国との溝が埋まらなかったためだ。

 その核超大国の新たなリーダーとなったオバマ大統領が09年にチェコ・プラハでの演説で「核兵器なき世界」の実現を掲げた。かつてない廃絶への弾みがついた、10年の前回NPT再検討会議は核軍縮の「行動計画」を盛り込んだ最終文書を採択。中東の非核化に関する国際会議を12年に開くことにも合意した。

■15年会議の見通し

 この5年の世界情勢を見ると明るくはない。中東非核化の会議は実現していない。ウクライナ情勢をめぐり米ロ関係は悪化した。

 しかし新たな光明もある。10年の最終文書にも示された「核兵器の非人道性」に焦点を当て、非核保有国が新たに行動を起こしたことだ。非人道性を検証する国際会議は昨年12月で3回を数えた。人類に起きたあの悲惨さを直視し、理屈抜きに廃絶しなければならないと考える為政者たちが増えている証しといえる。核兵器禁止条約をはじめとした非合法化の流れは確実に強く太くなっている。

 「私たちが生きているうちに核兵器をなくしてほしい」。被爆70年。老いた被爆者の願いをかなえる、意味ある成果が求められる。

広島平和文化センター 小溝泰義理事長に聞く

非人道性の議論に期待

 NPT再検討会議には、世界の約6500都市が加盟する平和首長会議(会長・松井一実広島市長)も非政府組織(NGO)の一員として参加する予定だ。何を期待し、どう関わろうとしているのか。事務総長を務める広島平和文化センターの小溝泰義理事長(66)に聞いた。

 外務省に勤めていた2005年と10年は、日本政府代表団の一員として再検討会議に出席した。公式、非公式の協議を重ね、各国とも自らの主張を通そうと必死だった。今の国際情勢を考えると、今回もかなり厳しい交渉になるだろう。それでも、近年の核兵器の非人道性をめぐる議論を反映し、一歩でも二歩でも法的禁止に向けた前進があると期待したい。

 NPTは不平等条約だ。なのに特権を与えられた核兵器保有国が、核軍縮交渉を十分に進めていない。そんな状況の下、核軍縮は保有国の「専売特許」ではないとの考えが非保有国に広まってきた。核被害のリスクを負わされているのは自分たちなのだから、と。第2次世界大戦後、核爆発が起きる危険が何度もあったことなど、廃絶すべき根拠を示しながら議論し、保有国も無視できなくなってきた。潮目は変化している。

 その議論の中心に、被爆者の声を置き続けるべきだ。被爆者たちは感情論でなく、まさに実体験という事実を語り、人々の心を揺り動かす。安全保障の議論は戦略論、技術論に偏りがちだが、日本を含め、政治家は被爆の実態や被害者の声をもっと知るべきだ。何のための安全保障か、あらためて考えないといけない。

 平和首長会議は被爆者のメッセージを伝える回路を広げてきた。加盟都市をさらに増やし、他の市民団体とのネットワークを強化して発信を続けたい。NPT再検討会議では通常、公式行事のNGOセッションで各国政府代表に直接、思いを訴えられる。被爆70年の節目。核兵器廃絶へ、うねりをつくる好機としたい。

こみぞ・やすよし
 1948年、千葉県生まれ。法政大法学部卒。70年に外務省へ入り、国際原子力機関(IAEA)事務局長特別補佐官や、ウィーン国際機関政府代表部大使などを歴任。2012年11月にクウェート大使を最後に退職した。13年4月から広島平和文化センター理事長を務める。

紙面編集・加田智之

(2015年1月4日朝刊掲載)

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