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社説・コラム

社説 首相年頭会見 「実りの季節」は本当か

 安倍晋三首相はきのう、伊勢神宮に参拝した後、年頭記者会見を行った。「アベノミクスは実りの季節を迎えようとしている。ことしも経済最優先で取り組む」と述べ、景気の先行きに自信を示した格好である。

 だが、素直にうなずける人がどれほどいるだろう。地方の中小企業や低所得者ら、アベノミクスの恩恵を受けられない多くの国民がいる。その声をどこまで受け止めているのだろう。

 4日付の本紙が紹介した中国地方の主要企業アンケートでは、ことしの景気見通しについて72%が「横ばい」としている。一方、「回復」は昨年より9ポイント少ない21%にとどまった。

 円安による原材料高に直撃され、消費も冷え込んだまま。経営者が明るい展望を持ちにくいのも、もっともだろう。  ところが全国の大企業を主な対象とした共同通信社の調査では、87%が「ことしは景気が拡大する」と見込んでいる。

 都会と地方、大企業と中小企業、富める者と持たざる者…。以前から格差は厳然とあったが、アベノミクスがむしろ拡大させた。それが地方に暮らす私たちの実感であることは、首相も分かっているはずだ。

 きのうの記者会見でも「地方創生」を力説していた。やる気とアイデアにあふれた数カ所を「地方創生特区」に指定し、全国の改革モデルにするという。

 東京一極集中を是正し、地方の雇用を増やすという基本的な方向性はうなずける。

 しかし、中山間地域の再生につながるかどうか。施策の中身は乏しいと言わざるを得ない。首相がアピールした特典付き地域商品券にしても、効果が長続きするかは不透明だ。

 名産品の開発や販路拡大を支援するための法案を通常国会に提出するとも首相は語った。とはいえ、民間がすでに切磋琢磨(せっさたくま)している分野だ。ここにきて官がてこ入れしても、やはり効果は限られるのではないか。

 何より地域の将来像は、その特性と実情に合わせてそれぞれが描くべきものだ。地方にアイデアを競わせ、それを中央省庁が「審査」するような形で果たしてうまくいくだろうか。しかも地方への税財源移譲が伴わないままでは、抜本的な改革につながるとは思えない。

 安倍首相は記者会見で、安全保障政策の法整備についても時間を割いた。

 集団的自衛権の行使容認に関連する法案を通常国会に出す。成立し施行されれば、同盟国である米国の戦争に日本が巻き込まれる法的根拠となろう。戦争放棄を定めた憲法9条がますます骨抜きになり、もはや解釈改憲の域を越えてしまう。

 ただ、その憲法改正について首相は会見で自ら触れようとせず、記者に問われて「政権公約に掲げたものは実行する」と述べただけだった。

 他にも、首相が詳しく語らなかった課題は多い。悪化する国の財政は立て直せるのか。エネルギーのうち原発の占める比率をどう考えるのか。そして社会保障制度の将来像は…。

 年頭に当たり、明るい未来を語ろうという首相の思いは伝わってきた。半面、厳しい現実に正面から向き合う姿勢はさほど感じられなかった。残念ながら、言葉が空疎に響いたというほかない。

(2015年1月6日朝刊掲載)

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