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社説・コラム

『書評』 詩集「燕の歌」 89歳被爆医師の警告 御庄さん 

 被爆医師として多くの被爆者を支えてきた、詩人御庄博実さん(89)=広島市安佐南区=が、詩集「燕の歌」=写真=を刊行した。

 御庄さんは岩国市に生まれ、1945年には原爆投下2日後、知人を捜して広島市に入った。戦後は詩人として峠三吉らとも活動。88歳まで医師として診療の現場に立ってきた。卒寿を前に体調を崩して入院中の御庄さんが、自ら「最後の詩集」とする本書には、未収録の近作27編を収めた。

 「α線の行方」は、時を超えて人類をむしばみ続ける原爆の残留放射線や劣化ウラン弾による被曝(ひばく)の非人道性をうたう。タイトルにもなった「燕の歌」は、毎年春を告げるように回帰するツバメに命のつながりを見いだし、戦争や権力の犠牲となった人たちへの思いを重ねる。

 放射線被曝の悲劇は続き、現政権は集団的自衛権が行使できるよう進めるきな臭い世の中。組曲のように連なる詩は、数々の命と向き合ってきた御庄さんからの警告のように響く。

 A5判変型、119ページ。2160円。和光出版。(森田裕美)

(2015年1月6日朝刊掲載)

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