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社説・コラム

社説 仏紙テロ 暴力は正当化できない

 あってはならない事件がフランスの首都パリで起きた。風刺専門の週刊紙の本社が銃撃され、社員や警官ら計12人が犠牲となった。

 捜査当局は容疑者3人を特定した。このうち2人はフランス国籍を持つアルジェリア系の兄弟という。イスラム過激派との関わりが伝えられている。

 同紙はイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画などを載せており、それに対する報復との見方が強まっている。表現や言論を暴力で封じようとするテロは決して許されるものではない。

 先月から、フランス各地で警察や市民を襲撃する事件が相次いでいた。イスラム過激派との関連を疑う当局が警戒を強める中で、事件が発生した。

 フランスからは欧州で最も多くの若者たちが戦闘員として中東の過激派「イスラム国」に加わっている。背景には、アフリカなど旧植民地から移住したイスラム系住民を取り巻く差別や格差の問題があるとされる。そうした状況が今回の事件に影響しているのか、しっかり見極めなければならない。

 表現の自由と、イスラム教の宗教的信条をめぐっては、これまでにも何度も各国で問題が起きている。

 例えば、2005年にデンマークの新聞がムハンマドの風刺画を掲載すると、イスラム圏の各国で抗議行動が広がった。さらに12年には預言者を描いた米国の映像作品が反感を招き、リビアの米大使らが殺害された。

 なぜ、これほどの反発を見せるのか。イスラム教徒の心情を把握しておく必要があろう。

 多くの教徒はムハンマドを風刺の対象にすること自体、許容できないとの思いを持っているそうだ。聖典のコーランも侵してはならないものだという。それらが侮辱されたと受け止めたときに怒りを覚えるのだろう。

 だからといって、人命を奪うテロが正当化されることは絶対にない。今回の事件について、イラン外務省も「罪のない人々へのテロ行為はイスラムの規範に反するものだ」と非難する声明を発表している。

 風刺画に反対するにしても、あくまで言論でなければならない。一部の過激派を除く大半のイスラム教徒は不快感を抱いても暴力に走ってはいない。十分分かっているはずだ。

 表現の自由を脅かしているのは、イスラム過激派だけではない。北朝鮮は、金正恩(キムジョンウン)第1書記の暗殺計画を題材にするコメディー映画を製作したソニーの米映画子会社に、サイバー攻撃を仕掛けたとみられている。

 映画の内容をめぐっては、議論があるかもしれない。だが批判や抗議も言論で行うべきだ。

 日本も人ごとではない。忘れてはならないのは、28年前に起きた朝日新聞阪神支局への襲撃事件である。

 押し入った男が散弾銃を発射し、呉市出身の小尻知博記者が29歳の若さで亡くなった。「赤報隊」名の犯行声明が出されたが、犯人は捕まっていない。

 表現の自由は、民主主義国家の根幹をなしている。報道機関に限らず、国民が暴力によって言いたいことが言えない社会にはしてはならない。

 いかなる理由があろうと、表現や言論に対する暴力は認めない。その決意をいま一度、強くしたい。

(2015年1月9日朝刊掲載)

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