×

社説・コラム

社説 佐賀知事選 政権の押し付け通じず

 先の衆院選に勝利した安倍政権には、思ってもみなかった結果だろう。おととい投開票された佐賀県知事選である。

 地元JAが支援する元総務省過疎対策室長の山口祥義(よしのり)氏が、自民、公明両党が推薦した前武雄市長の樋渡啓祐氏を破り、初当選した。最終的に両氏の得票差は4万票近くに開いた。

 今回の選挙は春の統一地方選の前哨戦とも位置付けられた。それだけに閣僚や自民党幹部が相次ぎ佐賀県に入り、樋渡氏への支持を訴えた。

 だが、昨年11月の沖縄県知事選に続く与党の敗北に終わった。地方の民意を重く受け止める必要があろう。

 保守分裂選挙となったきっかけは、国政に転出した前知事の後任候補を選ぶ経緯にある。当初、自民の県連などが独自に別の候補の擁立を進めていたが、官邸主導で樋渡氏に決まった。

 樋渡氏は武雄市長時代、図書館の民間委託や、小中学校と学習塾の連携などを進めた。これから規制改革に取り組むとする安倍政権としては、「改革」を後押しする姿勢をアピールしたい思惑もあったようだ。

 一方、政権の農協改革に危機感を強めるJAが推したのが山口氏だ。樋渡氏の手法に反発する自民の一部も支持に回った。

 こうした選挙の構図の中で山口氏が勝利したのは、いくつかの理由が考えられる。

 まず、農協改革について地方では依然として慎重な意見が根強いことが挙げられよう。

 JA自らが認めるように、国内農業を支えるため改革が求められるのは確かだ。しかし、政権が検討している全国農業協同組合中央会(JA全中)の権限縮小といった方法でよいのかは議論が分かれるだろう。

 さらには、安倍政権は「地方創生」を強調しながら地方の民意をないがしろにしているという疑念があったのではないか。

 象徴的な例が、沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事への対応である。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を掲げて当選した翁長氏が先月、上京した際に安倍晋三首相や菅義偉官房長官は会おうとしなかった。

 2015年度の沖縄振興予算も減額されそうだ。これでは政権の言う通りにすれば応援するが、盾突くようなら冷たくあしらうやり方にほかならない。

 そうした上から押し付けるような政治手法への抵抗感が強かったと思われる。当選を決めた山口氏が「佐賀のことは佐賀で決める」と語ったのは、多くの県民の思いを代弁していよう。

 選挙戦で残念だったのは、全国的にも関心が高い九州電力玄海原発の再稼働や、陸上自衛隊が導入する垂直離着陸輸送機オスプレイの佐賀空港への配備の是非について論戦が低調だったことだ。民間空港を自衛隊と共用化することには、地元から懸念する声も聞かれる。

 いずれの問題も、県民の意見は二分されているようだ。本来であれば、選挙を通じて議論を深めるべきだった。それができなかったことが過去最低の投票率にとどまった一因だろう。

 新たな知事となる山口氏は遠くない時期に、原発再稼働への同意やオスプレイ受け入れについて是非の判断が迫られる。選挙戦では限られていた県民の議論を今後、十分に尽くした上で、結論を導いてもらいたい。

(2015年1月13日朝刊掲載)

年別アーカイブ