×

社説・コラム

天風録 「デモの吹き回し」

 おや、街角に人だかりが見える。何事だろうと想像を巡らせてみても、セールか、うまいものに並ぶ行列くらいしか思い付かない。そんな身にとっては、目が覚めるような光景である▲風刺週刊紙の本社銃撃からテロが相次いだフランスで犠牲者を弔い、テロに屈しないと意気上がる人波が370万人に及んだという。仏政府も「史上最大」と認めるほどの国民的なデモ。渦巻く感情はしかし、風向き次第では嵐のように吹き荒れる▲怒りや不安は、往々にして人の胸に収まり切らない。「伝染病」とされるゆえんだ。実際、隣国ドイツでイスラム系移民に矛先を向ける追悼デモが現れた。風穴を得て、偏見まで噴き出そうとしているのかもしれない▲かち割るのではなく、頭を数えるのが民主主義だと教室で学んだ覚えがある。脅しや暴力でなく演説やペンを通じた選挙が勘所ということ。思うところを世間の風にさらし、省みることで言論は鍛えられるに違いない▲表現の自由を尊び、パリでの大行進に各国の首脳も顔をそろえた「1・11」は文明史に刻まれよう。ペンを思わせる「1」の字が三つ並ぶ因縁に思いをはせながら、私たちもまた哀悼と連帯の意をささげる。

(2015年1月14日朝刊掲載)

年別アーカイブ