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社説・コラム

社説 戦後70年 科学の役割 紛争の予防 常に意識を

 最先端の科学技術が誤って使われれば、どれほどの悲惨な状況を招くか。米国が広島、長崎に投下した原爆が如実に示すことは言うまでもなかろう。

 ところが、いまだ核兵器を廃絶できないばかりか、この地球上には人類を何度も破滅させるだけの核弾頭が存在する。人間の愚かさの象徴というほかに、言葉が見つからない。

 軍事面以外なら核物質をコントロールできる。現状ではそれが過信だったことも、福島第1原発の事故が教えてくれた。

 科学技術は万能ではない。それを大前提に、社会全体がどう向き合っていくか。原爆投下から70年、「3・11」から4年のことし、あらためて社会と科学との関係を見つめ直したい。

安全神話に加担

 「人類として人類に向かって訴える。あなたがたの人間性を心にとめ、他のことを忘れよ」

 原爆投下から10年後に出された「ラッセル・アインシュタイン宣言」の一節だ。核兵器のない世界を求める科学者たちの呼び掛けは、倫理を忘れ、核技術という「パンドラの箱」を開けた科学界全体の反省文でもあろう。

 むろん廃絶への道筋が見えない最大の要因は国際政治の怠慢にほかならず、科学者ばかりが責めを負う話ではない。

 一方、福島第1原発の事故から見えてくるのは、核物質の完全な封じ込めは不可能であり、つまりは科学技術が未熟ということではなかったか。

 そもそも被爆国にこれだけ原発が増えたのはなぜだろうか。豊かな暮らしをもたらす面ばかりが強調され、結果として、国を挙げて「安全神話」に加担してきたとは言い過ぎだろうか。

 ふに落ちない点はまだある。とりわけ「3・11」後の政府の原子力政策だ。

 エネルギーに占める原子力の比率を下げるとしながらも、安倍政権はその具体的な目標数字や工程を示すよりも前に、原発の再稼働を急いできた。原発輸出にも前のめりに映る。

 さらに核燃料サイクルの継続も理解できない。高速増殖炉「もんじゅ」の実用化にめどが立たないように、原発の使用済み燃料からプルトニウムを取り出して再利用を繰り返す技術は未完成であり、政策の破綻は明らかだ。核兵器に転用できるプルトニウムをためこむことは、核兵器廃絶の訴えとも矛盾しよう。

「軍事」への接近

 もう一つ、安倍政権の科学技術施策で気掛かりなことは、経済成長を最優先するあまりの「軍事利用への接近」である。

 昨年来、それまでの武器輸出三原則をやめ、欧米とのミサイルなどの共同開発を推進している。ことしに入って正式決定した政府の新たな宇宙基本計画も、米国との防衛協力の強化を視野に入れた。

 私たちがドライブで使う衛星利用測位システム(GPS)のように、軍事利用が科学技術を飛躍的に発展させてきたことは歴史的な事実であろう。

 とはいえ、きのこ雲の下での人間的悲惨を味わった被爆国として肝要なのは、むしろ紛争を未然に防ぐ発想と具体的な手だてではないだろうか。人類の未来に非軍事面で役立つ科学技術こそ平和国家にはふさわしい。

民生の安定こそ

 温暖化防止や再生可能エネルギー活用を柱とした地球環境対策、高齢者や障害者らの生活の質を向上させるロボット技術、難病患者の光明となる新薬や治療法開発など、わが国に期待される分野はいくらでもあろう。

 もとより平和を脅かす要因は紛争だけではない。貧困にあえぐ国々への民生技術の支援や移転を積極的に進め、貧富の格差是正や生活の向上に貢献していく。世界平和を確かなものにする科学技術を模索していきたい。

(2015年1月14日朝刊掲載)

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