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かき船移転「再考必要」 原爆ドーム近くに計画 イコモス国内委の顧問ら 広島

 広島市中区の元安川にある船上飲食店、かき船「かなわ」の原爆ドーム南約200メートルへの移転計画で、非政府組織(NGO)の日本イコモス国内委員会(東京)の事務局長たち2人が13日、「再考が必要」との見解を示した。世界遺産であるドームの「精神的価値を下げる可能性がある」との理由。今後、市に対し、委員会として懸念表明などの対応を取るという。

 矢野和之事務局長(68)=東京都市大非常勤講師=と、前委員長の前野まさる顧問(82)=東京芸術大名誉教授=が移転先周辺を約1時間視察。市役所では市の担当者と非公開で会い、食文化としてのかき船を守る意義や移転経緯について説明を聞いた。

 その後、市議会棟で記者会見した矢野事務局長と前野顧問は、ドーム周辺は世界中の人が犠牲者を悼み、平和への願いを新たにする場であるとし、移転計画を問題視。懸念表明や、再考を求める要望書の提出をする構えをみせた。

 委員会は、世界遺産選定の調査や評価に当たる国際記念物遺跡会議(イコモス)の国内組織。懸念表明や要望書には法的拘束力はない。2006年5月にも、当時委員長を務めていた前野顧問が、ドームのバファーゾーン(緩衝地帯)への高層マンション建設の中止を働き掛けるよう市に要請した。

 今回は、かなわの移転計画を知り、訪れたという。今月24日に平和団体の関係者たちでつくる予定の「かき船問題を考える会」の準備会事務局長の私立高校教諭大亀信行さん(62)=中区=は中国新聞の取材に「計画をもう一度考え直してほしい」と話し、委員会の見解を歓迎した。

 一方、市経済観光局の谷本睦志局長は「移転が原爆ドームの世界遺産としての価値を損ねることはない」と従来の考えを維持。かなわは「広島の食文化を守り、伝えたいという思いだ。(同委員会側の考えは)市から連絡もなく、内容が分からずコメントのしようがない」とした。

 かなわは、現在地では治水上の問題があるとして、水がほとんど流れない死水域への移転を国から求められていた。市の手続きを経て、国は昨年12月に移転先の占用許可を出した。(菊本孟)

(2015年1月14日朝刊掲載)

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