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福島舞台 苦悩映す 倉本聰が創作「ノクターン―夜想曲」 被災地通い「風化させぬ」

 東日本大震災と福島第1原発事故の被害に遭った福島県を舞台に、脚本家倉本聰が創作した演劇「ノクターン―夜想曲」。憤りと悲しみを胸に、足しげく現地に通い紡いだ物語だ。「福島ではまだ原発事故が続いている。当事国でわずか4年のうちに悲劇が風化しているのはあんまりじゃないか」。倉本が塾長を務める演劇集団「富良野GROUP」が、1月から全国上演を始めた。(余村泰樹)

 舞台は震災数年後、原発事故の避難区域の一軒家。津波で2人の娘を失った中年男性と同僚を亡くした新聞記者が、時間の止まったままの家に忍び込む。古びたピアノと地震で倒れたピエロの彫刻がある部屋で、2人は、父親を亡くした住人の女性彫刻家と被災体験を語り合う。

 「僕たちは福島の人たちに寄り添うことしかできない」。震災半年後に取材を始めた倉本はそう語る。幼子を放射能から守るため、寝たきり患者を残して逃げざるを得なかった看護師の苦渋。津波を撮影しようとした記者が、避難誘導をして犠牲になった同僚の姿を知った際の苦悩。「受け取った思いをどこまで出せるか」。物語には出会った人の体験を色濃く投影した。

 3年で10回以上、泊まり込みで現地に通った。惨禍に遭っても「人間はすてきな行動をとる」とあらためて気付く。行方不明の娘を捜して砂浜を掘り続ける父親、金もうけでなく故郷を守る使命感で廃炉作業をする地元の労働者…。「人間っていいもんだな」。温かなまなざしがあふれる。

 一方、福島の悲劇を忘れ去ろうとするかのような日本の現状への目は厳しい。五輪招致時に安倍晋三首相が笑顔で発した「アンダーコントロール」、廃棄物の処理法も見つからず原発再稼働や原発輸出にかじを戻そうとする政財界…。「政府は意図的に風化を狙っている気さえする」

 原発事故に翻弄(ほんろう)される人たちの物語だけに、風当たりは強い。テレビドラマとして企画したが「時期尚早」と受け入れられず、舞台をPRする発言を制限しようとする企業もあったという。「12万人が避難を続ける状況に思いをはせてもらうだけでも意義はある。福島のことを忘れないでほしい」。重ねた脚本の改稿はすでに7回。福島の人たちが最も恐れる「風化」を食い止めようという気概がにじむ。

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 中国地方の日程と問い合わせは次の通り。

 2月10日午後7時、津山市文化センター=岡山放送事業部Tel086(941)0091▽12日午後7時、倉敷市芸文館=同▽16日午後1時半と6時半、周南市文化会館=Tel0834(22)8787▽18日午後7時、廿日市市はつかいち文化ホールさくらぴあ=Tel0829(20)0111。

(2015年1月17日朝刊掲載)

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