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記憶刻むスケッチブック 限られた時間 証言に生かす 広島県被団協理事 樽本さん

 原爆投下から70年のことし、広島県被団協(坪井直理事長)の理事、樽本叡(さとし)さん(83)=呉市仁方本町=は、被爆体験をまとめたスケッチブックを使って証言活動に取り組む。悲惨な記憶を残しておこうと5年前につづったものの、当初は人に見せるつもりはなかった。被爆者が老いを深め、体験を語れる人が減る中、「若者に記憶を伝え続けなければならない」と決意した。

 絵に文章を添えたスケッチブックに「被爆時の記憶をたどって」とタイトルを付けた。旧制広陵中(現広陵高)2年生の時、爆心地から約1・5キロの学徒動員先の比治山橋(現広島市南区)近くで被爆。どこを歩き、どう生き延びたかを39ページにわたって描いている。崩れた建物からはい出し、目にした火の海。黒い雨。現在の中区榎町の自宅焼け跡で母と姉の遺骨を見つけ、茶わんに入れて持ち帰ったことなどをつづった。2010年に完成させた。

 鬼籍に入った仲間も少なくない。被爆体験の継承が課題となる中、形にしておけば記憶は残ると考えた。しかし生きている間は表に出そうと思わなかった。過去を他人にさらけ出すことに戸惑いがあったからだ。

 それが、県被団協が昨年10月の理事会で、被爆70年は「若者との対話」を柱に活動する方針を打ち出し、考えを変えた。これまでも年2、3回、修学旅行生や地元の小学生に体験を語ってきた。原爆を描いた童話「おこりじぞう」(山口勇子作)を紙芝居にして使っていた。自分の話も織り交ぜるが、むき出しの体験とはいえない。肉声と絵で生の記憶を伝えられる時間は限られている。そう思い、スケッチブックを表に出すことを決めた。

 樽本さんは「子どもたちに平和を願う心を持ってもらうのが出発点。要望のある学校には積極的に赴きたい」と意気込んでいる。(小笠原芳)

(2015年1月19日朝刊掲載)

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