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原発立地の自治体動揺 国・電力会社に疑念噴出

 東京電力福島第1原発の事故は地元自治体の行政機能をマヒさせ、避難した多数の住民を「故郷喪失」の危機に追い込んだ。原発マネーを主財源とする町づくりを進めてきた各地の「城下町」に広がる動揺。雇用の場と多額の交付金をもたらすことで共存関係を築いた〝城主〟に、疑念と不安の目が向けられている。

 「コメも野菜も、全部原発関係の会社に入れていた。原発がなくなったら影響は大きいよ」。第1原発の5、6号機が立つ福島県双葉町。住民の避難先となった埼玉県の旧県立騎西高校(廃校)で、空調関係の職人だったという男性(63)がこぼした。

 第1原発の営業運転開始は1970年代。「何もない、半農半漁の出稼ぎの町」(住民)だった同町は、多額の交付金と固定資産税に頼り、道路や公共施設などのインフラ整備を進めてきた。

 だが「絶対安全」が崩れ、町は役場機能ごとの移転を余儀なくされた。周辺地域が高濃度の放射性物質に汚染される恐れもあり、関係者からは「国と東京電力にだまされた」との声も上がる。

 それでも、ある住民は「5、6号機はまだ生きているはず。7、8号機の建設計画もある。原発はものすごい雇用を生むし、町はすごく豊かになる」。夢をあきらめきれない様子で語った。

「共存するしか」

 事故の波紋は、原発を抱える全国各地の自治体にも広がっている。松江市の中国電力島根原発。点検不備問題を受け停止中の1号機の再開と、建設中の3号機の運転開始を控えるが、島根県幹部は「既定路線ではいかない。自治体がどこまでリスクを負うのか、きれいごと抜きの議論が必要だ」。

 10キロ圏内に入る松江市島根町は3月末、中国電力関係者を呼んだ説明会を開催。「代替エネルギーの検討を」「津波対策は」。不安を募らせる住民から疑問が噴出した。ただ同市への10年度の交付金は約46億円。参加した男性(68)は「ほかに地域存続のすべが見つからない。安全対策を徹底してもらい共存するしかない」と頭を痛める。

 同原発から20キロ圏に一部が含まれる境港市。トラブル発生時の迅速な連絡などを定めた安全協定の締結を中国電力に求める方針だ。市幹部は「不安はあるが、原発がなくなると電力が賄えず、すぐに止めてほしいという状況ではない」と複雑な表情だ。

地域間で温度差

 自治体の間に、微妙な〝温度差〟が生じるケースも出ている。

 3号機増設が計画される鹿児島県の九州電力川内原発。周辺のいちき串木野市や出水市など5自治体は、九電に「凍結」を申し入れた。だが地元である薩摩川内市の岩切秀雄市長は「国の動きを注視する」と静観の構え。市担当者も「事故原因も分からず、何かを判断する段階ではないというのが市長の考え。議会が大多数で増設に賛成した経緯も重く受けとめているのだろう」と話す。

 地元の反応には、国や電力会社も神経をとがらせる。東京電力の幹部は「安全を大前提に、地域の発展に貢献する気持ちでやってきたが、地域の暮らしを激変させてしまった。住民の怒りはもっともだ」と声を落とす。

 関係者によると、原発建設にあたっては、立地担当者が地元に通い詰め、住民らの理解を得るため「原発がいかに安全か」をアピールしてきた経緯がある。

 それだけに、ある電力業界関係者の言葉には強い危機感がにじむ。「これまで積み上げてきた信頼感は完全に地に落ちた。これから原発離れはどんどん進むだろう。今まで自分たちがやってきたことは何だろうかという気持ちだ」

(共同通信配信、2011年4月3日朝刊掲載)

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