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社説・コラム

『書評』 話題の1冊 ドイツ大使も納得した、日本が世界で愛される理由 フォルカー・シュタンツェル著 

震災契機 駐在の日々記す

 未曽有の原発事故をもたらした東日本大震災から間もなく丸4年。在日ドイツ大使館には当時多数の意見が寄せられ、大使だった著者は対市民外交としてブログを始める。それを加筆修正したのが本書。「間違いの多い日本語で翻訳者の手を借りず」に書かれるが、それが逆に純朴な温かみを生んでいる。

 ドイツ大使館は東日本大震災発生直後に1カ月、東京から大阪に移った。「何百人ものドイツ人が東京や横浜に留(とど)まった」なかであり、批判にさらされた。混乱が収まるとともに著者は一時帰国。日本で暮らす危険性について数多く聞かれ関心の高さに驚く。ドイツでは原子力使用に反対する市民の声が急激に強まり、ある州選挙では60年ぶりの政権交代につながった。「原発事故が全世界に与える影響は、日本が考えている以上に大きい」という。

 東京から広島、大阪などへ移転したり一時閉館したりした大使館はドイツだけではなかった。25カ国を数えた。そこには触れず、批判をそらさず受け入れる。公的な記録でなくても、国を代表して駐在する人間の気概がさりげなくそこにある。

 著者は10歳の時、学校の先生から反核と平和を訴える「イースターデモ」に参加すると聞いた。広島・長崎に原爆が落とされた日本から欧米など世界に広がった反核運動と知り、15歳で自身もデモに加わる。それが日本への関心を深め、フランクフルト大で日本学を専攻、京都大にも留学した。3年前には広島の平和記念式典に参列、荘厳さに感動したという。

 堅苦しい本ではない。「大使館にAKB48がやってきた!」「ヤクザ映画みたいな関西人はいなかった」「年末の第九はドイツ人兵士から始まった」など各章ユニークなテーマで4ページ以内。易しい文章、といっても意志は明確、切れ味が鋭い。(祖川浩也)(幻冬舎・1296円)

(2015年1月25日朝刊掲載)

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