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社説・コラム

私の学び 広島市立大広島平和研究所講師・竹本真希子さん 

平和運動 思い引き継ぐ

 ナチスの脅威が広がる中、反ファシズムを訴え、ノーベル平和賞を受賞したドイツの反戦ジャーナリスト、カール・フォン・オシエツキー(1889~1938年)。その伝記を読んだことが転機になり、ドイツ近現代史と平和運動史について研究する道を選んだ。大学院に進み、研究者を目指すことは決意していたが、テーマを決めかねていた大学4年の時だった。

 20世紀前半のドイツは、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を実行したナチスに注目が集まりやすい。その裏側で、圧力に屈せず平和運動を進めた人物の声を、歴史にうずもれさせたくなかった。第1次世界大戦後、暗黒の時代に向かうドイツに、平和を訴えた人がいたことも新鮮だった。人間に希望を感じた。

 もともと歴史好きな少女だった。年表を見るのが好きで、「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」などテレビの時代劇にも見入った。「考古学者になりたい」という夢を胸に大学へ。しかし、2年生の夏に初めて経験した発掘調査の実習で、炎天下で汗を垂らし、虫が舞う環境に「フィールドワークは無理」と感じた。「屋内で本に囲まれて勉強する方が性に合っているかも」

 翌年、第2外国語で学んだドイツ語の研修のため、1カ月間ドイツへ。異文化の空気に触れ、のめり込んだ。帰国後、ドイツ語の教授が紹介してくれたのが、オシエツキーの伝記だった。大学院では著名なドイツ史研究者、西川正雄教授(故人)のゼミに入った。自分の研究領域をしっかり持ちながら、世界史とのつながりにも視野を広げる姿勢を身に付けた。

 被爆60年の2005年7月、広島平和研究所に赴任。1カ月後、平和記念式典に参列した。一人一人の被爆体験や、家族を失った遺族の記憶がよみがえるような雰囲気。「本当にたくさんの人の命日なんだ」と心を打たれた。10年近くが過ぎ、「被爆者や平和運動を続けてきた人の思いを引き継がないと」というプレッシャーと向き合いつつ、今なお平和を訴え続ける現場に身を置くことの意義深さも身に染みて感じている。

 過去は未来につながっている。同じ間違いを繰り返さないため、歴史を学ぶ。もし今、間違いが起きれば、ちゃんと「ノー」と声を上げられるか。そんな意識を持ち、一人一人が尊重される社会を築きたい。(聞き手は山本祐司)

たけもと・まきこ
 茨城県鹿島町(現鹿嶋市)出身。1995年、専修大文学部卒。ドイツのカール・フォン・オシエツキー大で博士号取得。2005年、広島市立大広島平和研究所助手に着任。08年から現職。専門はドイツ近現代史、平和運動・平和思想史。

(2015年1月26日朝刊掲載)

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