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連載・特集

緑地帯 いま 表現を考える 永田浩三 <4>

 第五福竜丸シリーズを描き、日本でも多くの支持を集める画家、ベン・シャーン。彼は、ユダヤ人への差別が生み出したドレフュス事件や、無実の移民が処刑された「サッコとバンゼッティ事件」を描く社会派の芸術家だった。

 彼の絵にほれて壁画の制作を持ち掛けたのが、メキシコの巨匠、ディエゴ・リベラだった。1933年、リベラはニューヨークのロックフェラーセンタービルに巨大壁画を手掛ける。絵の真ん中にソ連のレーニンを描こうとしたが大騒ぎになり、リベラは仕事から降りてしまう。もし資本主義の中心にレーニンの肖像があったら、その後の米国、いや世界は変わっていたかもしれない。

 リベラの下で壁画の醍醐味(だいごみ)を知ったシャーンは、後にサッコとバンゼッティの壁画をニューヨーク州のシラキュース大に描く。メディア研究でも知られる大学の理念である自由と正義を体現するものとして、壁画は今も残る。壁画の前を通る人々に尋ねてみた。現代社会の不正義とは何かと。すると、福島の原発被害、外国人や黒人への差別、レズビアンへの偏見といった答えが返ってきた。

 50年代の米国は極端な反共主義のマッカーシズムが吹き荒れた。水爆実験に強く反対したシャーンも下院の非米活動委員会から喚問を受けることになった。そこでシャーンが盾にしたのは、米国憲法の精神である言論の自由だった。シャーンは勝利した。その仲間は、CBSテレビの看板キャスター、エド・マロー。彼もまた、放送を通じてマッカーシー上院議員の攻撃に敢然と立ち向かう表現者だった。(武蔵大教授=東京都)

(2015年1月21日朝刊掲載)

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