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連載・特集

緑地帯 いま 表現を考える 永田浩三 <6>

 武蔵大(東京都練馬区)の正門前に骨董(こっとう)屋さんがある。古藤(ふるとう)という屋号で、店の奥にギャラリーがある。区役所の元課長と出版社の元編集者のご夫妻が営んでいる。

 4年前のある日、教員仲間と大学近くに映画館をつくりたいと話しながら散歩していた。目の前に骨董店が店開きしていた。中に入ると、50人は座れるスペースがあった。そうだ、ここで映画をやろう。奇跡のような出合いだった。

 以来、夫妻と共に面白いことを繰り返している。去年は、広島市中区の基町アパートの清掃員、ガタロさんの絵画展を開き、千人近い人が来てくださった。古藤には地域の応援団がいる。思い付いたのは、他ではできそうにないような差し障りのある企画だ。

 3年前、旧日本軍の元「慰安婦」を撮影した韓国人カメラマン安世鴻(アンセホン)さんの写真展が他のギャラリーで一時中止になった時、応援団の力で無事やり遂げることができた。以来、たくさんの仲間とイベントをやることが定着した。

 福島原発事故を受けて始めた映画祭は、この3月で3回目になる。そして今、「表現の不自由展」(2月1日まで)を開催している。「はだしのゲン」の学校図書館からの追放や、「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」という俳句の公民館便りへの不掲載といった騒ぎが相次ぐ中、あらためて「表現の自由」について考えたい。

 中でも、最も差し障りのあるものとして、韓国・ソウルの日本大使館前に設置された「慰安婦」をイメージした少女像の原型を展示することにした。議論はともかく、まず見てほしいと思ったのだ。(武蔵大教授=東京都)

(2015年1月23日朝刊掲載)

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