×

社説・コラム

天風録 「三春の春」

 春を告げる梅、桃、桜の三つの花が一緒に咲くことが地名のいわれとされる。福島県の中央部にある三春町を訪ねた。樹齢千年以上というシダレザクラ「滝桜」は名高い。大きく枝を張った巨木の存在感に圧倒された▲町は福島第1原発から50キロ近く離れた地にある。原発事故の影響で落ち込んだ観光客は徐々に回復している。だが町内には、原発から10キロ圏の富岡町から避難した人たちの仮設住宅が点在し、いまも事故が影を落とす▲その三春町に新たな「種」がまかれる。人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」を生んだ東京の制作会社が進出を決めた。廃校になった中学の校舎を借り、世界に送る映画の工房やミュージアムを4月に設ける▲制作会社のプロデューサーで工房のトップに就く浅尾芳宣さんは福島市の出身。インフラや施設が復旧しても県内への観光客が戻らない現状を変えたいと意気込む。日本が誇るクールな力で大輪の花を咲かせてほしい▲滝桜から増やした苗木が昨年、広島市街地を望む黄金山に植えられた。福島県から避難した人たちを励ますためだ。三春町にアニメ拠点が誕生する頃には本家の滝桜は満開だろうか。どちらの春も待ち遠しい。

(2015年1月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ