×

ニュース

ドーム周辺 昨年も落書き 世界遺産の景観守る規制区域

■記者 河野揚

 世界遺産である原爆ドーム(広島市中区)前の元安川護岸で「反核」などの落書きが見つかった問題で、昨年、ドーム周辺の護岸やベンチへの落書きが、少なくとも3件あったことが分かった。市民らからは落書きへの怒りや、世界遺産の景観悪化を嘆く声が上がる。ただ実効ある対策はないのが実情だ。

 元安川護岸では5日、管理する中国地方整備局太田川河川事務所(中区)の職員たちが、落書きを金だわしなどで落とす作業をした。しかし、完全には消えなかった。

 「広島に来る多くの人は原爆ドーム目当て。日本人としてあるまじき行為だ」と大阪市城東区から家族4人で訪れた無職橘経男さん(74)。花見にきた安佐北区の無職由良禎男さん(68)も「反核の主張なら正しい訴え方をしてほしい。市民として憤りを感じる」と嘆いていた。

 市緑政課は昨年、元安橋の下の護岸地面に「咲かせてみて」と黒い文字で書かれるなど原爆ドーム周辺で落書き2件を確認した。ただ被害件数の記録はない。同課は「警備員や清掃員が市に報告せずに消すケースもあり、把握しきれない」という。またこれとは別に、元安川で雁木(がんぎ)タクシーを運航するNPO法人雁木組が昨年、やはり元安橋の下の護岸に黄色い落書きを見つけている。

 原爆ドームは1996年に世界遺産に登録された。ドームを囲む柵内(0.4ヘクタール)が指定区域。さらに一帯は国の史跡(1.1ヘクタール)にも指定されている。世界遺産や史跡は文化財保護法により、毀損(きそん)した場合、5年以下の懲役もしくは禁固または罰金30万円以下の罰則規定がある。

 今回落書きが見つかった場所は、世界遺産の景観維持のための規制区域バファーゾーン(42.7ヘクタール)。ただ文部科学省によると、こちらには罰則はないという。

 落書きは夜にされるケースが多いが、公園の警備員は夜間巡回をしていない。同課の桑原靖課長は「費用対効果を考えると、警備員の24時間張り付けや防犯カメラの増設は難しい」。悪質な落書きに、頭を抱えている。

(2011年4月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ