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社説・コラム

『潮流』 心に刻む旅

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長・宮崎智三

 100万人を超す犠牲者を出したポーランドのアウシュビッツ強制収容所跡を訪ねたことがある。いうまでもなく人類史上に残る汚点、ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の舞台である。

 広大な敷地の端にある小さな池まで、半日がかりの見学でようやくたどり着いた。

 突然、雷鳴と共に強い雨が降りだした。死者の骨が投げ込まれていたという「死の池」を慌てて離れ、出口までの長い道を必死に走った。

 冷静に考えると、単なる偶然だったのだろう。それでもなぜか、何か特別のことが起きたとしか思えなかった。「忘れるな」。そんな重いメッセージを託された気さえした。

 ユダヤ人というだけで不当にとらわれ、洋々たる前途を無残に断ち切られた人々の思いが、冷たい雨に交じって降り注いでくるようだった。

 その地を今度は、広島の若者8人が訪れる。広島大や広島市立大など五つの大学が小論文や面接などで選んだ大学生6人と、被爆証言など平和をテーマに取材・活動しているジュニアライターの高校生2人だ。

 3月下旬にヒロシマ平和創造基金が実施するスタディーツアーである。アウシュビッツに加え、オランダに足を延ばし、アンネ・フランクの隠れ家も見学する。

 悲劇を二度と繰り返さないため記憶をどう継承していくか。次世代の果たすべき役割は何か。そうした課題は、やはり原爆投下という人類史上の罪が刻まれている被爆地広島とも共通しているはずだ。現地の若者との交流から、解決へのヒントが見つかるかもしれない。

 その地に立って初めて感じることができる、過去からのメッセージはきっとある。ホロコーストの地で、広島の若者は何を見て何を心に刻むのか。実りある旅を期待して送り出したい。

(2015年1月29日朝刊掲載)

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