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島根原発防災 どう再構築 福島第1原発事故受け周辺市町

■記者 永里真弓

 「原発をめぐる問題は、松江だけの問題ではなくなった。状況は一変した」―。中国電力島根原子力発電所(松江市)から約20キロ離れた斐川町役場で、勝部勝明町長は険しい表情を浮かべた。

 東日本大震災で被災した福島第1原発で深刻化する事故は、島根原発の周辺市町と住民に大きな衝撃を与えている。放射性物質の大気や海への放出が続き、国は半径20キロ圏内を避難指示区域に、20~30キロ圏内を屋内退避区域としたままだ。

 「影響があまりにも広範囲の住民に及んでいる。斐川町にとっても看過できない事態だ」と勝部町長。3月28日、島根原発の安全確保の徹底を中電に申し入れた。

県に支援要請

 福島原発の事故を受け、島根原発の30キロ圏内にある自治体は3月下旬、相次いで中電に安全、防災対策の強化を求めた。斐川町に加え、原発のある松江、出雲、安来、雲南4市と東出雲町。県境を越えた米子市が申し入れ、境港市も近く実施する予定だ。

 雲南市は今回、情報公開や計画の事前了解などを盛り込んだ安全協定の締結を初めて求めた。速水雄一市長は「周辺住民の不安を解消することが安全確保に向けた第一歩。中電には地元自治体と信頼関係を築く姿勢を示してほしい」と強調した。県にも協定締結に向けた支援を要請した。

 中電が現在、協定を結んでいるのは県と松江市だけにとどまる。立地地点の自治体と結ぶ紳士協定という位置づけだ。その根拠となっているのが、国の防災指針に記された「防災対策を重点的に充実すべき地域(EPZ)」。その範囲は原子炉の設置地点から半径8~10キロ圏内を目安とする。

 これまで出雲、境港、米子の3市が協定締結を申し入れたが、中電はEPZを理由に断ってきた。

8市町で連携

 島根、鳥取両県と島根原発の周辺8市町が3月25日に初めて開いた防災担当者会議でも、協定締結の必要性が議題となった。両県と8市町が連携し、国にEPZを定めた防災指針の見直しを求める意見も出た。

 さらにEPZは、島根県や松江市が策定した地域防災計画にも反映される。島根原発で想定する避難区域は8~10キロ圏内。この範囲を重点区域に避難計画も策定しているが、県と市の担当者は「今後、国の指針とともに見直さざるを得ない」という。

 中電と県、市に安全対策の強化を求めた島根くらしといのちのネットワークの高山幸子さん(58)は「20キロ圏内だけで20万人の住民が暮らす。どうやって住民の安全を確保するのか明確に示してほしい」と求める。

 島根原発では今後、定期検査中の1号機の運転再開に加え、新設した3号機の運転開始を控える。クリアしなければならない課題は山積している。

島根原発の安全協定
 1974年の島根原発1号機の運転開始を前に、中電と県、旧鹿島町(現松江市)が72年に締結。法的根拠はなく、電力事業者と原発立地自治体の間で結ぶ紳士協定。情報公開▽施設の増設や新たな利用計画についての事前了解▽核燃料輸送計画の事前連絡▽立ち入り調査の実施▽運転停止の要求▽風評被害などの損害補償―などが盛り込まれている。

(2011年4月6日朝刊掲載)

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