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連載・特集

廃炉の世紀 第3部 課題を聞く <1> 原子力委員会・岡芳明委員長 

国民全体の理解必要 費用や期間 影響を注視

 中国電力島根原子力発電所1号機(松江市鹿島町)など、老朽原発の廃炉判断が目前に迫っている。国のエネルギー政策への提言を担う内閣府原子力委員会の岡芳明委員長は「国民全体が、自分の問題として廃炉と廃棄物の問題を理解する必要がある」と強調する。

 ―廃炉の課題は。
 使用済み燃料を取り出して施設を解体する廃炉作業は、基本的に既存の技術で対応できる。茨城県東海村にあった動力試験炉「JPDR」(出力1・25万キロワット)を安全に廃炉にした経験もある。被曝(ひばく)や汚染を最小限に抑えるため、それぞれの原子炉の特性に応じた技術開発はこれからも必要になる。

 廃炉の主な課題は、廃炉廃棄物の規制基準の整備、廃棄物の処分地の確保、廃炉費用への対策、立地自治体への影響緩和、人材育成の5点だろう。特に長年、発電所と共存してきた立地自治体の支援は地元のニーズを踏まえ考えるべきだ。

 ―国は廃炉作業を20~30年の期間で終える想定です。可能でしょうか。
 背景には、原発の運転を経験し、施設の汚染状況などをよく知る世代が現役のうちに作業を進めるべきだという考え方がある。電力会社が存続し続けられるかの問題もある。英国のように放射線量の低下を長期間待って廃炉を進める考え方もあるが、事業主体や人材の点で課題がある。

 ただ、廃炉に伴う廃棄物の規制基準や処分地が決まらないために国内で廃炉の工程に遅れが出ている例がある。廃炉の費用や期間への影響は注視していく。

 ―原子力委は長年、国の原子力政策を主導してきましたが、放射性廃棄物の問題に十分取り組んできましたか。
 確かに廃炉に伴う廃棄物の処分地はまだ決まっていないが、原発の運転中に出ている低レベル放射性廃棄物の一部は青森県六ケ所村で既に受け入れてもらっている。解体廃棄物も、六ケ所村と(運営主体の)日本原燃との話し合いの問題だと思っている。廃棄物の処分の問題は受け入れる地元の判断が大きい。高レベル放射性廃棄物もそうだが、今後、地元とともに考え、理解してもらえるような仕組みが必要になる。

 ―福島の事故後、原子力委は「原子力の推進」ではなく「中立性」を掲げて再出発しました。廃炉問題にどう関与しますか。
 原子力委は今後、原子力利用の在り方などを対象とした「基本的考え方」を策定し、取り組みなどを政府に提言する。廃炉は非常に重要な問題として議論されるだろう。国民全体が電力の恩恵を受けてきたことを忘れず、いかに自分の問題として廃炉と廃棄物の問題を考えられるかが重要になる。科学技術に基づく中立的な情報を基に、国民が対話と理解を深められるよう努めたい。

    ◇

 日本はこれから廃炉時代を迎える。私たちはいかに廃炉と廃棄物の問題に向き合えばいいのか。国内外の当事者や識者に課題を聞く。(山本洋子)

おか・よしあき
 東京大大学院工学系研究科博士課程修了。東京大工学部教授、日本原子力学会会長、島根県原子力安全顧問などを経て、2014年4月から現職。大阪市出身。

(2015年1月30日朝刊掲載)

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