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連載・特集

廃炉の世紀 第3部 課題を聞く <2> 日本原子力研究開発機構・林道寛氏

廃棄物の行き場 鍵に 海外のノウハウ 活用を

 世界初の原子力発電所の稼働から約60年。運転を終えた原発は世界で150基余りに上る。国際原子力機関(IAEA)の廃炉に関する作業グループのメンバーを務め、欧米の廃炉事情に詳しい日本原子力研究開発機構の林道寛氏は「解体廃棄物の処分場や中間的な貯蔵施設があるかどうかが、廃炉の鍵を握る」と指摘する。

 ―世界の廃炉の現状は。
 特に欧米でここ10年間に老朽原発の廃炉が急速に増え廃炉がビジネスになりつつある。日本は技術があっても経験が少ない。廃炉の加速に伴い、海外企業との連携で優れた技術を取り入れる形が増えるのではないか。非常に高い放射線量下で進む福島第1原発の廃炉は相当進んだ技術が求められる。人が近づけない場所での遠隔操作とセンシングの技術の進化は、通常炉の廃炉にも生きる。

 ―日本がモデルにできる取り組みはありますか。
 例えば、英国は旧型原発を「負の遺産」と認め、独立した英国原子力廃止措置機関(NDA)が一手に廃炉や放射性廃棄物の処分を進めている。日本も合理的に廃炉を進めるにはエンジニアリングに強い専門的な機関が必要かもしれない。また、大規模な廃炉が進むドイツのグライフスバルト原発は原子力潜水艦の解体を受注したり、敷地内に企業を誘致したりして雇用の確保に貢献している。

 ―日本の廃炉の課題は。
 欧米を見ると、着実な廃炉には、放射性廃棄物の処分場をきちんと確保できるか、それまでに原発内に中間貯蔵施設を整備できるかが鍵を握ることが分かる。大量に出る廃棄物の行き場がないために作業が滞れば、電力会社の資金がショートする可能性もある。

 日本は廃炉廃棄物の処分場が決まっておらず、敷地内での中間貯蔵が地元の理解を得られるかどうかも不透明だ。福島の事故後、全国で放射性廃棄物に対する抵抗感が高まっており、社会的な意味のハードルが非常に高い状況にある。

 ―なぜ廃棄物の対応が遅れたのですか。
 解体廃棄物の処分について国の大きな方向性は決まっていたが、具体的な議論が乏しかった。多くの電力会社が原発の60年運転を想定していたが、福島第1原発の事故を受けて「原則40年」に制限され、急に対応に迫られた事情もある。

 ―立地地域はどう対応すべきですか。
 廃炉で税収や交付金が消えれば、影響は大きい。例えば、地元企業が廃炉作業に参画しやすい環境整備を急ぐべきだ。炉心の作業は難しくても、周辺設備の解体は可能性が十分ある。経験を積めば他地域の廃炉も商機になり得る。電力会社任せでなく、自治体側も積極的に関与すべきだろう。

りんどう・ひろし
 茨城大大学院工学研究科修了。1978年旧動力炉・核燃料開発事業団入社。日本原子力研究開発機構バックエンド推進部門部門長などを経て、昨年4月からバックエンド研究開発部門の嘱託社員。千葉県鴨川市出身。

(2015年1月31日朝刊掲載)

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