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社説・コラム

天風録 「平和のための武器」

 本紙の「メール号外」が届いた携帯電話の着信音にどきっとした。まず思い浮かべたのは人質事件。無事解放なら…という期待は裏切られた。後藤健二さんを殺害か、という速報に目を疑う▲何より本人の無念はいかばかりか。生前に日本に届けた映像には戦禍や貧困にあえぐ市井の人々の姿が常にあった。「苦しんでいる子どもたちがいるから」。勇気と優しさと強さを兼ね備え、仲間から信頼されていた▲報道に身を置くものとして肌で分かる。現場を踏まなければ始まらない、と。ただ今度ばかりは問い掛けたくもなる。なぜ危険なところに足を運んだか。自らに課す使命と安全の両方を大切にできなかったのだろうか▲同じジャーナリストの言葉を思う。3年前にシリア内戦で銃火に倒れた山本美香さん。「報道することで戦争は止められる」。後藤さんもまた自らが愛した中東の人たちに平和をもたらしたいと願っていたに違いない▲「日本にとって悪夢が始まる」とテロ組織は脅す。銃やナイフで世の中を支配しようとするたくらみは許せない。武器はペンでありカメラであるべきだ。暴力の連鎖ではなく平和の輪を広げるために。後藤さんの思いを継ぐために。

(2015年2月2日朝刊掲載)

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