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社説・コラム

社説 邦人殺害で国会論戦 外交と対テロ 再点検を

 あまりに痛ましい出来事に、国内の動揺はしばらく収まりそうもない。

 「イスラム国」による日本人人質殺害事件を受け、安倍晋三首相はきのう「テロと戦う国際社会において日本としての責任を毅然(きぜん)として果たしていく」とした。中東で防衛駐在官の増員を検討するなど、テロ対策を強化する姿勢を国内外に示した。

 世界各地でイスラム過激派によるテロが相次ぎ、日本も国際社会と歩調を合わせることが求められているのは間違いない。

 悲劇を繰り返さないために、イスラム国にどう相対すべきなのか。政府は、外交・テロ対策を再点検してもらいたい。

 きのうの参院予算委員会では、当然ながらこの問題が大きなウエートを占めた。政府答弁のポイントは二つあろう。

 一つは安倍首相が「中東への食料、医療など人道支援をさらに拡充する」とし、非軍事分野でのテロ対策支援を拡大する意向を示したことである。

 イスラム国が事件を起こした背景の一つに、非軍事分野とはいえ、欧米と足並みをそろえる日本の姿勢を揺さぶる狙いがあったとされる。脅しに屈することなく、国際的な連帯を確認し、アピールしたことはうなずける。

 二つ目のポイントは、米国主導のイスラム国への空爆について「参加することはありえないし、後方支援も考えていない」と述べたことだ。

 今回の事件を機に、他国の軍隊とともに武力行使するなど、日本がスタンスを変えれば、日本人がテロの標的となる可能性がより強まるだろう。政府は引き続き、冷静な対応を肝に銘じてもらいたい。

 また今後、国会に提出される予定の安全保障法制について、菅義偉官房長官はおとといの記者会見で、人質事件とは「別問題だ」との認識を示している。

 安倍首相もきのう、安保法制の整備が実現した後でも、今回のようなケースで人質奪還のために自衛隊を派遣するのは困難との見解を示した。

 偶発的なテロを理由に、安保法制の整備を急ぐことには無理があろう。

 忘れてならないのは、中東における日本の立ち位置が急速に揺らいでいることだ。

 これまで日本は欧米と一線を画して、難民支援など非軍事面での協力を続けてきた。こうした背景からイスラム諸国とは良好な関係を維持してきた。

 ところが、2001年の米中枢同時テロ後は「テロとの戦い」を全面支持し、イラク戦争では人道・復興支援目的で自衛隊を派遣したことから、「日本は米国と変わらない」との認識が広まりつつあるようだ。

 日本が今後も中東で人道支援活動を拡大することに異論はない。ただ、現状のまま「テロに屈しない」と言い続けるだけでは、かえってリスクを高めてしまう恐れがあろう。

 いかに中立的な立場で施策を展開できるか。貧困や教育などテロの連鎖を生む背景に踏み込めるか。その具体策が問われていよう。

 あす衆院予算委員会で、あさっては参院予算委で、事件について集中審議がある。悲劇を乗り越え、中東の安定と外交・安全保障の在り方について議論を急がねばならない。

(2015年2月3日朝刊掲載)

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