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廃炉の世紀 第3部 課題を聞く <6> 原子力市民委員会・吉岡斉座長

何より福島集中投資 他原発「100年の大計」で

 廃炉は「100年の大計」で―。脱原発に向けた政策を提言する市民団体「原子力市民委員会」は、廃炉は時間をかけて進めるべきだと主張する。座長を務め、原子力政策史に詳しい吉岡斉・九州大大学院教授は「通常炉の廃炉を急ぐよりも、福島第1原発の収束に人材や資金、技術を集中投入するべきだ」と訴える。

  ―国は20~30年程度で廃炉作業を終える計画です。
 停止後の原発の廃炉を急ぐ必要は全くない。事故を起こしていない原発は健全性が保たれ、放射性物質が漏れることもない。使用済み燃料を取り出し、置いておけばいい。100年かそれ以上隔離し、その地で放棄するか、解体するかを決める。解体するにしても放射能は減衰しており、作業員などの被曝(ひばく)を抑えられる。

 最優先すべきは、福島第1原発の事故をいかに収束させるか。政府が急いでいる高レベル放射性廃棄物の処分地選定でさえ、急ぐことではない。原発の敷地内で安全に貯蔵すればいい。

  ―いかに実現しますか。
 英国で廃炉と廃棄物処分を一手に担う英国原子力廃止措置機関(NDA)に倣い、日本版の「JNDA」を組織し、全てを統括させる。低レベル放射性廃棄物の処分地の選定や処分場の運営などは、電力会社では成し遂げられないだろう。それもJNDAが必要となる要因だ。

  ―国は、会計制度の見直しなどで「円滑な廃炉」を促す姿勢を強めています。
 大事なのは原発を減らすという政策とセットで位置付けることだ。国は今も、原子力への依存度を下げる将来像も具体策も示していない。その状態で電力会社を支えるために会計制度だけを変えるのはおかしい。

 電力会社が原発を減らす方針を明確に示すなら、会計上の手助けや立地地域への財政支援などを手厚くすればいい。廃炉後の建て替え(リプレース)を許さないことが重要だからだ。

  ―「100年の廃炉」だと原子炉や廃棄物が地域に残されることになります。
 原発をいったん引き受けた自治体が、廃炉になったから「全て外に出せ」では理屈に合わない。酷なようだが、立地地域はその可能性も含めて原発を受け入れたともいえる。

 放射線量の高い廃炉廃棄物は1カ所で集中処分される計画だが、発生責任という意味では電力会社の管内ごとで処分すべきではないか。ただ、合意を得るのは難しく、原発敷地内か周辺が現実的とされるだろう。立地地域や事業者の利益が少なくても、国全体で何を目指すべきかを考え、脱原発の立場で提言していきたい。

よしおか・ひとし
 東京大理学部物理学科卒。専門は原子力政策、科学技術社会学。1994年に九州大教授。福島第1原発の事故に関して、政府の原発事故調査・検証委員会委員を務めた。富山市出身。

(2015年2月5日朝刊掲載)

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