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社説・コラム

社説 道徳の指導要領改定 命の重みをどう伝える

 小中学校の道徳が2018年度以降、「教科」に格上げされるのに合わせ、文部科学省が学習指導要領の改定案を示した。

 これからの子どもたちは、急速な人口減社会で先行きが見通せない日本社会に直面せざるを得ない。答えが容易に見つからない課題をじっくり話し合い、多様な価値観に触れる習慣を幼い頃から身に付けることは重要であろう。

 子どもたちを取り巻く課題に向き合い、多面的に考える教育の実践へつなげたい。

 教科化に当たっては「特定の見方や考え方に偏らない」と改定案に明記されたことは、その流れに沿うものだろう。従来の指導内容からの変更は小幅なものになりそうだ。

 文科省によると、道徳を教科化するのは、「教材を読むだけ」と批判のあった従来型から脱することに一つのポイントがある。討論や体験学習を通じて社会の課題を自ら解決する態度を育てるためである。

 学年ごとの指導内容について「善悪の判断」「個性の伸長」など22のキーワードも示した。何を教えるべきか、教員に理解しやすくする狙いもあろう。

 国は教科化に当たり、いじめ問題への対応を強化する方針だ。そもそもこの教科化の議論は、大津市のいじめ自殺事件が背景にあった。改定案では「誰に対しても分け隔てをせず公正、公平な態度で接すること」など6項目を示している。

 だが、いじめ問題は道徳を教え込めばなくなるという単純なものではあるまい。いじめの背景には、子ども同士の関係だけでなく、親との関係性や社会格差などさまざまな問題がある。こうした問題全体に取り組む姿勢こそ求められる。

 教科化で「評価」されることを気にするあまり、子どもたちは教員が何を求めているのか察する傾向が強まる可能性もあるだろう。表面上の「いい子」が増える一方、いじめが見えにくくなるかもしれない。子どもの課題に教員が目配りする環境づくりこそ大切であろう。

 命の重みをどう教えるのかも重要だ。10代の若者が凶悪犯罪に走り、「人を殺してみたかった」と言ってはばからない。あるべき倫理観を教え、モラルやルールの大切さを説くこともますます求められよう。

 現場は今後、こうした課題に手探りで向き合うことになる。

 ならば、学校の外から講師を招き、地域住民との連携を図ることも一つの手かもしれない。道徳で学んだことを、総合学習でさらに掘り下げることも重要であろう。児童や生徒の声に耳を傾け、自らの考えを深められるよう後押ししてもらいたい。

 鍵を握るのは、現場の教員の指導力向上に違いない。

 道徳の指導法について学ぶ機会はそう多くなく、研修に参加する教員も少ないとの指摘がある。国や各県教委などは今後、研修に力を入れてもらいたい。

 併せて、今後本格化する教科書作りも大切だ。道徳の教科化は、「愛国心教育」を前面に、安倍晋三首相が第1次政権当時から推し進めてきた。

 とはいえ、教科書出版社が、その意向に沿うような記述を増やすことには慎重であるべきだろう。多様な価値観に基づいた教科内容にすべく、衆知を集めてもらいたい。

(2015年2月6日朝刊掲載)

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