×

ニュース

福島原発事故 出荷制限 8万4000戸 5県農家

 東京電力福島第1原発事故の損害賠償の対象や金額について指針を定める、文部科学省の「原子力損害賠償紛争審査会」の初会合が15日、都内で開かれた。福島県など5県で放射性物質の検出により出荷が制限された野菜や原乳、シイタケの産出額は年間計671億円、農家数は延べ約8万4千戸に及ぶことが農林水産省から報告された。風評被害も含め、食品や水道、企業、運輸など影響は多方面に及ぶ。損害はさらに拡大しており、請求額は空前の規模となるのが確実な情勢だ。

損賠指針づくり初会合

 会長の能見善久・学習院大教授は、住民が避難指示に従うことで生じた費用など、算定が比較的容易な被害への賠償指針案を22日の次回会合に示し、指針全体の大枠を7月中には決めたいとの意向を明らかにした。

 農水省は出荷制限の影響以外に、避難指示や屋内退避対象地域のコメ1万6千ヘクタール、野菜900ヘクタール、葉タバコ900ヘクタール分などが影響を受けるほか、家畜の多くも死んでいると考えられるとした。

 原発30キロ圏内の海域が航行危険区域となり漁船の操業ができないことや、物価の下落も報告。「食品産業では、取引相手から汚染がないことの証明を求められ、新たな検査費用の負担が生じている」とした。海外では13日現在で29カ国・地域が輸入禁止や検査の強化を実施中という。

 このほか「相談会にさえ来られない人(事業者)が多々いる」(中小企業庁)、「福島ナンバーの中古車が敬遠されたり、納車時に汚染がないことの証明を求められる」(国土交通省)、「福島だけでなく茨城、栃木、群馬でも宿泊予約のキャンセルが相次ぎ、大変厳しい状況」(観光庁)などの報告が相次いだ。

 農水産物の損害に加え、避難に伴う費用や休業の損害、不動産価値の下落など、賠償の対象は多岐にわたるとみられる。初会合に出席した医療、原子力、法律の専門家10人の委員からは、風評被害の判断は難しく、しっかりした議論が必要との意見や、地震・津波と原発事故の損害との切り分けは難しいなどの指摘が出た。

原子力損害賠償法
 原発などの原子力施設で周囲の環境や住民に損害を与える事故が起きた際、被害者を救済するために定められた法律。過失の有無にかかわらず、電力会社などに賠償責任を課す。賠償の範囲などの指針を策定するため、紛争審査会が文部科学省に設置される。地震などの自然災害の場合、国は電力会社との契約に基づき、1原発当たり1200億円を限度に支出。残りは電力会社が工面する規定だが、必要と認めれば国がそれを上回る額を援助することができる。

(共同通信配信、2011年4月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ