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社説・コラム

社説 施政方針演説 改革の内実が問われる

 「戦後以来の大改革」を繰り返した安倍晋三首相。国会での施政方針演説からは、意気込みが確かに伝わってきた。

 「改革断行国会」のメニューとして列挙したのは多岐にわたる。経済再生、震災復興、社会保障、教育再生、外交・安全保障…。当然、戦後70年の節目を強く意識していよう。ただ大上段に構えた割に、国民が心からうなずける中身なのだろうか。

 具体的な改革として、真っ先に挙げたのが農業である。

 「農政改革は待ったなし」という言葉はその通りだろう。農業人口は減り続け、広島、山口、島根など農業従事者の平均年齢が70歳を超えた県もある。不安定な収入がネックとなって担い手は育たず、耕作放棄地は増える一方の現実がある。

 解決策として首相が高らかに掲げたのが農協の組織見直しである。政府・与党案で打ち出したばかりの全国農業協同組合中央会(JA全中)の一般社団法人への移行を表明した。ただ、これだけで農家の所得増につながり、農業が再生すると思っているなら認識がずれていよう。

 若い担い手を増やすことなど農業現場の視点からは欠かせない方策が、必ずしも示されていないからだ。さらにいえば消費者としてどんなメリットがあるのかも判然としない。  同じような印象は演説のあちこちに受ける。誰のため、何のための改革なのか、という肝心なところが見えにくいのだ。

 エネルギー改革にしてもそうだ。「電力システム改革が最終段階に入る」として、再生可能エネルギーを含め新規参入を促す発送電分離に意欲を示した。ただ現実にはかねて想定されたシナリオのうち最も遅い2020年にずれ込む見通しであり、肩透かしの感は否めない。

 しかも演説の中では再生可能エネルギーを最大限導入すると強調し、原発の依存度を下げる方針は変わらないと明言した。まさに同じ日に、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働申請に対して「合格」が出された。

 そもそも大改革というなら、規制に関わる既存のシステムに手を付けるだけで自慢できるはずがない。国の機構や歳出構造などの大胆な見直しも、避けては通れまい。なのに首相が表明したのは歴代政権の都合で肥大化した内閣官房と内閣府の事務縮小にとどまっている。

 きのう提出された15年度予算案の一般会計総額は96兆3420億円と過去最大に膨れ上がった。社会保障費の増大は大きいが、経済再生のため歳出増を容認してきたツケでもあろう。

 内閣府はこのままでは国と地方の基礎的財政収支を20年度に黒字化する政府目標が達成できないとの試算を公表した。その危機感を首相はどこまで持っているのだろう。少なくとも施政方針からは感じ取れなかった。

 その予算案にしても政府・与党側は3月末までの成立を目指す。ここまで提出がずれ込んだ最大の原因は昨年11月の強引な衆院解散にあろう。スケジュールありきの審議を求めるとすれば国会軽視ではないか。

 安倍首相は「批判の応酬は求められていない」と野党をけん制したが、あらゆる批判を受けて立つのが一国の指導者だ。まずは16日から始まる与野党の代表質問で、改革の内実をしっかり論じ合ってもらいたい。

(2015年2月13日朝刊掲載)

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