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社説・コラム

天風録 「「てぶくろ」のこころ」

 「てぶくろ」という民話がウクライナにある。森でお年寄りの落とした手袋をネズミが見つけ、すみ着く。それを見て、次はカエル、今度はウサギと次から次へ。果ては、天敵のはずのオオカミやキツネまで▲すし詰めになっても、いがみ合うことなく「どうぞ」と迎え入れる。福音館書店から翻訳されて50年となる絵本では手袋に窓や煙突までのぞき、かえって居心地よさそうだ。弱肉強食とは別の世界を見せてくれている▲激しく角突き合わせるウクライナ政府と親ロシア派勢力の間で2度目となる停戦の約束が整った。庭先で続く泥沼の争いにフランスとドイツが中に入り、取りあえず打った休止符。今度こそ終止符に―というのが世界中の願いだろう▲「泥沼」はかの地に限らない。中東の各地でも血で血を洗う内戦や紛争が続く。民族に宗教、言葉と挙げ出せば違いにきりはない。このままでは万物の霊長という、せっかくの名が泣く▲くだんの物語は最後、一番の大物が現れる。「のっそりぐまだ。わしも入れてくれ」。熊といえば、五輪でもおなじみとなったロシアのシンボル。停戦交渉も大詰めで顔を利かせた。おとぎの世界は丸く収まったのだが、さて。

(2015年2月14日朝刊掲載)

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